第23章 クラスターAの治療の手がかり

第23章 クラスターAの治療の手がかり
ポイント・パーソナリティ障害は理解しやすいようにクラスターA、B、Cと分類されている。・クラスターAは妄想性、スキゾイド、スキゾタイパル。・クラスターAは奇妙でエキセントリックである。・ときには同時にいくつかのクラスターに属することがある。
彼はもう本当に風変わりな人だが狂気ではないよ、全く。—-セラピスト、シゾイド患者について
クラスターA患者の症状の多くは遺伝性のようである。特にスキゾタイパルでは遺伝性がある。スキゾタイパルではシゾフレニー患者の血縁が多く、妄想性やスキゾイドではそれよりも少ない。クラスターAの患者は症状としてすべての人を疑い、勘ぐり、奇妙なことを空想することが多く、人々は彼らを遠ざけて奇妙な人と考える。この奇妙なタイプの人たちをほぼ精神病に似ているという観点でひとまとめにしてクラスターAとしている。ただし妄想性やスキゾイド、スキゾタイパルでは通常は幻聴、幻視などの幻覚は伴わない。しかし妄想性になることはあり、パラノイド的な確信や魔術的な確信を抱く。パラノイド的妄想は妄想性パーソナリティ障害で見られ、魔術的思考はスキゾタイパルで見られる。スキゾイドでは感情表現が限定され、人々から引きこもるが、妄想的になることはまれである。スキゾイドではシゾフレニーの血縁はない。スキゾイドは成功した職歴を持つことがある。通常は他人と関わらず、自己夢想に耽る。彼らは現実は問題がないと認識している。スキゾタイパルでは認知の障害があり、それはシゾフレニーと似ている。スキゾタイパルでもシゾフレニーでも前頭前野での血量減少が観察される。スキゾタイパルではシゾフレニーと同様に側脳室の拡大がある。クラスターAの患者は自殺や殺人の可能性が高い。引きこもり、パラノイド性で妄想性の場合には自分や他人を害するチャンスが多くなる。もし患者が高齢になり結婚せず男性の場合にはさらに可能性が高くなる。過去の自殺未遂があるかどうかが今後の自殺の危険のよい指標になる。多くの自殺は予防可能であり、患者の自殺の考えのサインに注意しなければならない。
キーポイント自傷他害の恐れについていつも質問すること。
妄想性パーソナリティ障害では他人が企んでいるという間違った信念のもとに他人に攻撃的になることがある。怒り、敵意、恨みが常にあるので、殺人に至ることがある。スキゾイドでは他人と関わらないので、殺人の可能性は低い。スキゾタイパルではパラノイドとなり攻撃的になることがある。奇妙で魔術的な思考は他者への攻撃的な行為に至ることがある。通常、攻撃は家族か知人に向けられる。殺人を犯す人の50%以上は事前にアルコールを飲んでいた。必ずしもアルコール症やアルコール過剰と知られていなかったとしても、クラスターA患者では過剰アルコールや過剰薬剤の可能性がある。
症例スケッチ
アンドリューは普通の24歳ではない。多彩な能力がある。卓越したダンサー、ピアノ弾き、歌手、手品。しかし彼は自信に思ったこともないし、人にほめられてもそう思うこともなかった。彼は自分はだめな人間で仲間に比較して劣っていると考えていた。彼は無口で引きこもりがちで、誰もアンドリューの自己評価がこれほど低いとは知らなかった。彼はパフォーマーの笑顔を浮かべているだけだった。彼は母方の祖母に育てられたが厳格な人で、「唇をかみしめて」貴族の血統を維持するために彼を育てた。アンドリューは誰にも言わなかったが、母親はヘロイン中毒で、有名なミュージシャンだった父親とは短い期間の関係だけだった。その代わりに、彼はまじめな中流家庭の物語を発明した。短い期間だが、アンドリューはモダンダンスの劇団の一員になった。そこでは男女問わず彼と関係を持ちたがった。彼の性的嗜好がどういうものだったかはっきりしないのだが、かなり苦しんだ末に、彼はすべての人を拒絶した。もともと孤独癖があったし、内部政治に参加することも拒否したので、結局ダンス劇団から追放された。あるクリスマスに、アンドリューは内面の空虚さを自覚した。それはだんだん激しくなって彼は食事も睡眠も普通にはできなくなった。気分は抑うつ的だったので、近所のクリニックに行った。3年目の精神科レジデントが抗うつ薬を処方したが、吐きけがして落ち着かなくなり、薬を続けられなかった。薬を中止してクリニックには行かなかった。アンドリューは自殺も諦めた。彼は自殺してもずっと苦しみ続けても同じだと思った。毎週電話していた祖母には何も言わなかった。ある夕方、彼は普通に家に帰り、青酸カリを飲んだ。彼の死に誰もが非常にショックを受けた。
ディスカッション
アンドリューが自殺した理由は何だろう、そしてどうすれば止められただろう。気分障害は自殺ともっともしばしば関係する診断である。うつ病患者は経過の初期に自殺する。男性、単身、孤独、45歳以上が多い。クラスターAのパーソナリティ障害があると自殺の危険は増大する。クラスターAでは対人関係の欠如や対人関係の困難を招くからである。またクラスターAでは逆境に適応することが難しい。アンドリューは大うつ病の典型的な症状を呈していた。睡眠障害、食欲不振、抑うつ気分、自己評価の低下。しかし彼のうつ病はクラスターAのスキゾイドパーソナリティ障害によって複雑になっていた。彼は性的関係を含めて他人と親密な関係を望まなかった。おおむねは孤独を好んだ。信頼できる親友はいなかった。祖母さえ彼は信頼していなかった。彼は冷酷でよそよそしかった。もしアンドリューが単にうつ病だけに悩んでいたら、クリニックで3年目のレジデントを回避しないで治療関係を保ち、別の抗うつ薬を飲んでいただろう。もっと経験豊富な医師ならば彼と治療関係を維持し、アンドリューに自殺の考えはあるのか聞いたかもしれない。アンドリューがメンタルヘルス施設を訪問したのに援助できなかったし自殺を止められなかったのはとても残念なことだ。しかしこれは珍しいことではない。研究によれば自殺した人の約20%は死の一ヶ月以内にメンタルヘルス施設と接触を持っているのである。レジデントは誤ってアンドリューは自殺のリスクが高くないと考えた。若いこと、身体的には健康であること、過去に自殺企図がないことなどが根拠だった。さらに彼はアルコール依存も薬物依存もなかった。最近は15-24歳の自殺リスクは非常に増大していると報告されている。
2013-03-27 19:50