第22章 パーソナリティ障害と摂食障害
ポイント・どのパーソナリティ障害でも摂食障害を引き起こすことがある。・摂食障害には神経性無食欲症と神経性大食症がある。・境界性、演技性、強迫性、自己愛性は摂食障害を併発する可能性が高い。・摂食障害を持つ患者の多くは同時に大うつ病に苦しむ。
パイを1ホール、クッキーを一袋、チョコバーを二つ。もちろん全部吐きました。—–大食症患者
神経性無食欲症は1600年代から報告がある。現代社会ではよく見られる病気である。若い女性は誰が一番痩せているかを競っている。ウェブサイトでは医師や親に知られずに体重をコントロールする方法を教えている。有病率は0.5-1%であり、多くの人は思春期早期に発症している。若い男性の患者も徐々に増加している。フロイトによれば性的活動に対しての神経症性の不安が原因で少女らは思春期に食欲をなくすのだという。Hilda Bruch は若い女性はこの病気で自己コントロールを手に入れ、無力感に打ち勝つと考えた。神経症性無食欲症の人は普通の体重を維持することを拒否する。わずかでも体重が増加することを恐れるし、体型に関して誤った思い込みがある。無月経になることがある。食事制限している人が多い。他人からはやせていると言われるが自分は太っていると思っている。自分から医者に行くことはまれで、家族が無理矢理連れて行くことが多い。妄想性パーソナリティ障害があって神経症性無食欲症がある人は、他人が体重や体型に関して自分をだましているのではないかと信じている。他人を羨む。攻撃されていると信じる。スキゾイド・パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になると、親しい社交は回避し、楽しいことをほとんどしなくなる。スキゾタイパル・パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になるとどうして食べられないかについて奇妙な信念を抱き、行動がエキセントリックになる。反社会性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になると、衣類などを万引きしたり、無責任でいい加減になったりもする。良心の呵責がない。境界性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になることは非常に多い。患者は半狂乱で見捨てられることを回避しようとする。対人関係は嵐のように激しい。セルフイメージは特に身体に関して障害がある。衝動性は強く、薬物乱用、無謀運転、自殺企図に至ることがある。演技性パーソナリティ障害の人が神経症性無食欲症になることもまたよくある。注目の中心になりたくて、不適切に性的である。自己をドラマ化することが多いし被暗示性が高い。自己愛性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症が併発すると誇大的で果てしもなく美を夢想して、痩せさえすればと願う。あまりに特権的で他人を利用するので付き合っているのは難しい。回避性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症がある人は、拒絶を恐れて引きこもる。依存性パーソナリティ障害で神経症性無食欲症がある人は、親や夫のような支配者の下にいたがる。痩せていなければ見捨てられると思い込み、非常に絶望的になる。神経症性無食欲症では強迫性パーソナリティ障害が一番よく見られるパーソナリティ障害である。完全な体重や常時の食事制限に容易にとらわれてしまう。仕事の能率を上げることに熱中する。強迫性パーソナリティ障害の慎重であることや融通の利かない点は神経症性無食欲症に完全に一致している。
神経性大食症の人はむちゃ食いをして嘔吐するか下剤を使って下痢を起こしたりする。彼らもまた体型や体重にとらわれている。むちゃ食いでは普通は食べられないくらいの量を短時間に食べてしまう。甘いお菓子が好きでアイスクリームやケーキを食べる。多くの大食の人は症状を恥じていて隠したがる。妄想性パーソナリティ障害では過食嘔吐を隠し通すことができる。スキゾタイパル・パーソナリティ障害ではたとえば悪魔が食べ物を奪ってしまうなど食事についての奇妙な信念を抱く。反社会性パーソナリティ障害では食べ物を盗み、嘔吐を楽しむ。境界性パーソナリティ障害では誰かとけんかをしたり、抗議の意味で嘔吐したりする。強烈な怒りなどの感情はむちゃ食いをいくらか落ち着ける面がある。演技性パーソナリティ障害では見せつけてやりたい人たちの前で食べられないことを演技して見せたりする。自己愛性パーソナリティ障害では他人を利用して自分中心に振る舞う。強迫性パーソナリティ障害ではすべてを食べることを基準にして考えるが、嘔吐と排泄で中和している。
キーポイント大食症では嘔吐や下痢で排出をしていることがある。排出しない場合には、絶食したり、運動したりして、食べ過ぎた分を処理する。
症例スケッチ
アンナは最初のインタビューで快活で協力的だった。肌は青白く、何重にも洋服を重ね着していてどれほど痩せているのかよく分からなかった。アンナは37歳だった。食欲と過去2回の入院について質問したところ、大丈夫、心配する必要はないとの返事だった。話し方は穏やかで筋が通っていたし正しかった。幻覚や妄想はなかった。私には神経症性無食欲症(制限型)と強迫性パーソナリティ障害であることは明らかだった。プロザック20mg/日を2週間分処方し、その後は倍にして40mgにした。薬剤のせいで体重が増えることはあるのか、彼女は注意深く質問した。この抗うつ薬は体重増加をもたらさない数少ないものの一つであることを保証した。プロザックが強迫的な体重測定、完璧癖、強迫的な食事制限を和らげてくれればいいと医師として思った。4週間たって体重増加はなく気分はよくなり積極的な様子に見えて強迫症状は少なくなった。5週の後、安心感が出てセーターを何枚か脱いだ(夏だった)。彼女の腕はほうきの柄のようで驚きはしなかったが心配になった。今後入院しなくてもよい程度の体重なのかどうか難しいところだった。朝昼夕のメニューを聞いたとき彼女は嘘をついた。ダイエットコーラとにんじんだけが栄養だったこともあったようだ。治療の焦点を摂食障害に移すにつれて、彼女は欠席がちになった。仕事場面での対人関係はあまり負担ではなかった様子だったので、私はそこに焦点を当てた。よい面としては、彼女は大食がなく、下剤を使用することもなかった。3ヶ月以上の間、他の人たちから孤立してボーイフレンドもなかったのだが、違法薬剤も使わなかったし、アルコールも飲まなかった。アンナは離婚した両親のそれぞれに年に数回会っていた。結婚した姉がいて、電話で話すことが時々あった。数年間の間、月経はなかった。13歳のとき彼女はまるまると太っていて、学校の男の子たちはあざけり笑った。支配的な母親は怒り、減量の本を持ってきて二人でダイエットを始めた。目標に達したとき母親はダイエットを中止した。しかしアンナはその後もダイエットを続け、痩せていった。そのことを彼女はパワフルと感じた。母親はアンナの無食欲を無視していたのだが、ついにアンナは失神して病院に運ばれた。医師は入院を勧めてた。17歳の時彼女は5’6’’(165センチ)で、たったの90ポンド(40.7kg)だった。ナースが毎日体重測定するのでアンナは入院病棟が嫌いだった。もし彼女が食事を食べたくないとか、体重を減らしたいとか言えば、ベッドから出してもらえなかった。彼女には独自の強迫症的な日課があったのだが、病院のナースはそれを許してくれなかった。患者の一人が、体重測定の前に水をグラスに5杯飲めばごまかせると教えた。アンナはバスローブのポケットに石ころを入れて体重をごまかしたこともあった。退院してから、精神科医の診察には行かなかった。体重は108ポンドまでいったが彼女は耐えられなかった。30歳になったとき不眠で自発的に精神科医を受診した。そのとき体重は再び90ポンドまで減っていた。精神科医はパキシル20mgを処方した。4週間後、よく眠れて、気分もよく、強迫性症状も少なくなったのだが、体重が125ポンド(それは彼女の身長の標準体重)までいったので彼女は怖くなってしまった。友人はほめたし、ある男性はデートを申し込んだ。しかしそれでも体重増加に耐えられなかったので彼女は薬をやめてしまった。そして太ったお腹を鏡で見て彼女が思ったのは巨大な太ももだった。
ディスカッション
7年前に私が彼女を初診するまでに、彼女は神経症性無食欲症と強迫性パーソナリティ障害の診断基準をすべて満たしていた。治療の始まりには、ラポールを確立することと陽性転移が大切だった。アンナはいつも治療を中止すると医師を脅かしていた。薬物療法に加えて、食べることと体重増加に関して肯定的に強化するようなアプローチの認知行動療法がベストな治療選択だった。強迫性パーソナリティ障害に関しては、体重を減らすのではなく、増えないようにチェックする方向で強迫性を閉じ込めるようにした。
2013-03-27 19:50