第19章 パーソナリティ障害と強迫性障害(OCD)

第19章 パーソナリティ障害と強迫性障害(OCD)
ポイント・強迫性障害(OCD)と強迫性パーソナリティ障害(OCPD)を混同しないこと。・どんなパーソナリティ障害でも強迫性障害になることがあるが、演技性パーソナリティ障害は可能性が少ない。・強迫性障害は基本的に不安性障害である。・強迫性障害と強迫性パーソナリティ障害が合併することはある。
強迫性障害患者はしばしば症状を宇宙からの侵略者のように思う。このありがたくない侵略者は彼らの人生のコースを変えてしまう。—–Drs.Eugen Neziroglu and Jose A. Yaryure Tobias
強迫性障害(OCD)では、強迫観念または強迫行為があり、一日一時間以上時間を費やしたり、非常な苦痛を感じたりしている。強迫観念はしつこい観念、思考または衝動で、侵入的で不適切である。自我親和的ではない。患者はこれらの考えを考えざるをえない。そしてその考えは自分自身の心から出たものだと認識している。もし患者が、思考吹入のように、その考えが誰かによって強制されたものだと感じるなら、それはOCDではない。清潔と秩序に関して考えを巡らし、その考えを抑圧しようとする。強迫行為は手洗いや数かぞえのような、不安を減じる反復行動である。強迫行為は患者が回避したいと思っている出来事と現実的には関係していない。手が不潔と考えたとしても、1回ではなく10回洗えばいいというものでもないし、不吉な数字を回避したからと言って、現実に何かがよくなるものでもない。強迫性パーソナリティ障害の特徴は強迫観念や強迫行為の存在ではない。それは強迫性障害の特徴であって、混同しないことが大切だ。秩序、完璧性、コントロールに心を占領され、それが成人期初期から始まる。強迫性パーソナリティ障害患者は摂食障害、抜毛癖、薬剤依存、心気症、性的倒錯、大うつ病がある時の罪責感などを併発することがある。そして食事、抜毛、以下同様に関して単なる癖の範囲を超えていれば、OCDがあると分類され合併していると考えてよい。妄想性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば、人々が忠誠心なく信用出来ないという考えにとりつかれる。スキゾイドパーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば常に孤独な活動を選ぶように強制されるかのようである。スキゾタイパルパーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば人が彼について話すとき常に否定的であるとという考えにとりつかれる。一方、反社会的パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば彼が他人を騙そうとしている時でさえ、彼に対してはすべての人が肯定的であるかのように強迫的に行動する。境界性パーソナリティ障害でOCDがⅠ軸にあれば他人に対しての怒りを強迫的に行動化することがある。演技性パーソナリティ障害ではOCDがⅠ軸にあれば、強迫的と言うよりは衝動的で、時には他人の興味を引くように強迫的に話たりする。彼らはⅠ軸のOCDをもっとも持ちそうにない人たちである。自己愛性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば自分の偉大な美や知性のファンタジーに取り憑かれることがある。回避性パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば強迫的に他人を回避する。依存的パーソナリティ障害はOCDがⅠ軸にあれば他人が彼を助けに来てくれるのを待つことに取り憑かれることがある。OCDやOCPDをもつ人々にとって秩序に心を奪われることは強迫観念や強迫行為につながる。OCPD患者はあまりにも完璧主義者なので、プロジェクトを強迫的に完成しようとし、しかしシジフォスの神話のように決して達成されない。
キーポイント患者が厳格で頑固であっても、強迫観念的でも強迫行為的でもないなら、診断は単にOCPDである。
患者集団によって文化的に正統と認められた風俗習慣が反映されている行為に関しては除外する必要がある。例えば、患者の宗教グループが食事前に手を三回洗うことを要求しているなら、OCDとは考えない。ただ彼が一日に12回手洗いをして家族や友人が彼に苦情をいうならそれはOCDである。
症例スケッチ
一目見ただけで誰もがマークは完璧な人生を送ってきたと思うだろう。背が高くハンサムで完全に身づくろいして、35歳の弁護士で、自分の弁護士事務所を持ち、二人の秘書と一人の事務員を雇っていた。しかしマークは強迫性障害と格闘していた。一つの明白な症状は仕事を強迫的に何度もチェックすることだった。仕事の速度が耐えがたいほど遅いので、たいていの弁護士の3倍の時間がかかった。午前6時に始めたとしても、終わるのはしばしば夜10時であり、それでも彼のケースの事務量は軽いのだった。従業員はマークは奇妙だと思った。彼らは毎日彼が何かの儀式をするのを見ていたし、それを助けるように頼まれた。机に座る前に、ペンと本を円形に並べないと気がすまなかった。このパターンがセットされないと、彼は仕事をはじめることができなかった。彼は従業員に机の上にファイルを置くときには2つセットで置くように要求した。そして部屋の右側からだけ入るように要求した。彼がひざ掛けを左右対称にように気をつけていることを従業員は知らなかった。3ヶ月前に彼は従業員に左側だけから入るように頼んだ。一度秘書が机から本を動かした時、マークは激怒した。その本が机の上に戻されるまで仕事ができなかった。職員は知らなかったが、彼はしばしばイライラして、気分のむらがあり、慢性的な空虚感があった。対人関係は強烈で不安定であり、その点では彼は境界性パーソナリティ障害と診断されただろう。マークの従業員は通常は注意深く彼の奇妙な要求に従っていた。そして彼らは彼の好みの秩序に部屋を保つことに多くの時間を費やした。仕事が終わっている時でもマークは毎晩9時に帰宅する事ができなかった。何かし残した大事な仕事がありそうな気がした。ある日マークはもう何回も見たはずの請求書をチェックしないではいられなかった。請求書の合計は正しいと確認するのだが、またすぐに疑問が生じる。3時間を費やしたが、そのおかげでその日しなければならなかった大事な申請書を忘れてしまった。そんなことがあって、彼は治療を受けなければならないと決心した。マークが受診した精神科医はOCDとBPDと診断した。マークはレクサプロを処方され、6週間で60ミリまで増量された。その量で彼は安心を感じた。チェック儀式を中止して、各ケースに費やす時間は約半分に減った。
ディスカッションOCDは比較的よく見られる疾患で、アメリカで600万人。男女同数でしばしば家系内で遺伝する。OCDでは帯状束が過活動になっているとの報告がある。多くの患者は抗うつ薬、特にSSRIによく反応する。このことは、OCDが特にセロトニンの神経伝達系の問題であることを示しているとする理論もある。認知行動療法が有効である。行動療法は強迫思考よりも強迫行為に有効である。マークのケースはOCDの典型例である。厳しい強迫観念を満足させるために強迫性の反復行為をして、結果として長時間労働して成功した弁護士である。事務所にいる時間は長いのだがOCDがあるので成果はあまり上がらない。この病気のよい点として粘り強さがある。彼はいったん仕事を始めると完了するまで諦めない。薬剤が彼の固執性を消すことはない。薬剤で能率がややよくなることはある。数ヶ月の治療の後、マークの強迫性障害は75%減少した。怒りと気分のむらは少なくなったがⅡ軸の境界性パーソナリティ障害の診断を取り消すほどではない。

2013-03-27 19:50