2014-04-03 スーパーで

見た目は「本物」、中身は「別物」がスーパーにはいっぱい並んでいた
スーパーで買い物をするとき、「値段」を基準に選んでいる人は要注意。その食べ物、「ニセモノ食品」かもしれません。見ただけでは絶対にわからない、食品の本当の作り方を徹底的に調査しました。
安さを追求しすぎた
解凍した魚を「鮮魚」、紙パックに入ったジュースを「フレッシュジュース」とするのはOK。でも、サーモントラウトを使った弁当を「シャケ弁」と表示してはいけない—昨年、相次いで発覚した食材の表示偽装問題を受けて、消費者庁がまとめたメニュー表示のガイドライン案の一部だ。あまりにわかりにくく現場の混乱を招くとして、いま、見直しを余儀なくされている。
だが、この表示偽装騒動、「どのように表示するか」だけが問題なのだろうか。生物学者で青山学院大学教授の福岡伸一氏は、こんな指摘をする。
「(エビチリなどに使う)バナメイエビを芝エビと表示していたのは、どうせわからないだろうと消費者を軽視して騙していたのでしょう。不都合なことは表示せず、売りになることはウソでもアピールする、こうした風潮は問題です。
『安さ』が食品の価値基準となった現代では、食を作り出すプロセスに見えない部分が多くなりすぎた。だからこそ、それをいいことに偽装問題が起きたのです。この点もきちんと考えるべきではないでしょうか」
そもそも私たちは、自分たちが口にしている食品に何が材料として使われ、どのように作られているのか、知らなすぎである。
たとえば、あなたが牛肉だと思って食べているものが、じつはまったく違う別物だったということも、あり得るのだ。
昨年8月、ロンドンで開かれたハンバーガーの試食会には、200人以上もの報道陣が押しかけていた。
注目された理由は、パテに使われた牛肉が世界初の「人工肉」だったから。
披露された焼かれる前のその肉は、見た目にはスーパーで売られているひき肉と違いはない。より本物に近づけるため、赤いビーツ(砂糖大根の一種)の汁とサフランで色づけされているという。
「ジューシーさが足りないけれど、本物の肉に近いね」
焼いたその肉を挟んだハンバーガーを一口食べた人は、こう感想を述べた。いまや人類の技術を駆使すれば、農場ではなく実験室で食肉を製作することも可能になっている。
日常的に食卓に並んでいる
試験管の中で培養されたというこの肉、一体どうやって作るのか。開発者のオランダ・マーストリヒト大学教授のマーク・ポスト氏に聞いた。
「牛の筋肉から幹細胞を採取し、培養ケースに入れると、48時間以内に増殖が始まります。そのうち、筋肉と筋肉を結びつける腱も作られ、筋肉が収縮するようにもなる。数週間すると、ハンバーグを1つ作れるほどの肉に成長するんです。もっと味をよくするためには、脂肪細胞も同様に培養して筋肉と混ぜればいい。
40年後には、世界の人口は90億人を超えます。肉の需要は増加し、大量の食肉不足が発生します。この技術は、それを解決する手段になり得るのです」
この1枚のパテの肉を作るのにかかる費用は、現段階でなんと約3500万円。生産効率、味ともにまだ改良が必要だが、10~20年での実用化を目指すという。研究には、グーグルの共同創設者であるサーゲイ・ブリンがスポンサーとなっている。我々の食卓に人工肉が並ぶ日がやってくるのは、もはや時間の問題だ。
食糧危機に備えるため、より安く作るため、より美味しくするため—人間は自分たちのニーズに合わせて、あらゆる食品加工技術を「進化」させてきた。そうして作られた食品のなかには、福岡氏が言うように作るプロセスを見る機会はないものの、それを見れば眉をひそめたくなるようなものも少なくない。
そして、見た目は「本物」だが中身は「別物」という食品は、すでに日常的に食卓に並んでいる。たとえば、和食に欠かせない醤油。小麦と大豆を原料とする麹に塩水を加え、発酵させて作る日本人にもっとも馴染みの深い調味料だが、じつはこの醤油、ニセモノが多数出回っているという。
「醤油の味がするだけで、醤油もどきの調味料は本当に多い。増量のため醤油にアミノ酸液を加えて着色料で黒い色をつけ、化学調味料や糖類などを足して作ります。スーパーなどで1リットル百何十円という安い価格で売られている商品は、こうして作られているものが大半です。原材料名に『アミノ酸液』と書かれていたら、醤油もどきです」(『食品の裏側』著者・安部司氏)
アミノ酸液とは、大豆の搾りカス(脱脂加工大豆)を塩酸で分解し、苛性ソーダで中和するとできる液体調味料のこと。これを利用すれば、時間をかけて発酵する手間もなく、あっという間に醤油もどきが完成する。弁当などについている醤油はほぼ例外なくこれだ。
体に良さそうなものが危ない
もう一つ、和食を作るのに欠かせないものに、だしがある。手軽に使えるインスタントの和風だしを活用している人も多いだろう。この原料となっているのは、昆布やかつお節などではなく、「微生物」の産物だ。
「グルタミン酸ナトリウムや核酸などのうま味調味料は、じつは微生物が作り出しているんです。糖蜜の中で、うま味を作り出す微生物を培養し、その産物に化学反応を起こしてナトリウム化する。この微生物は、遺伝子組み換えでつくられたものです。
さらに複雑な味を出すために、アミノ酸液を粉末にしたタンパク加水分解物も混ぜられる。かつおや昆布のエキスは、風味づけとして使われる程度です」(前出・安部氏)
私たちが魚介のだしだと思っていたものは、じつは「微生物だし」だったわけである。
また、本来ハムといえば、豚のもも肉を塩漬けにしたあと燻製にしたもの。原料の豚肉に手が加えられているのだから、豚肉そのものよりハムのほうが値段は高くて当たり前だろう。
だが、スーパーで値段を比べてみてほしい。たとえば都内のあるスーパーでは、ある日、国産の豚もも肉が1gあたり約1・9円(100g188円)、ハムが1gあたり約1・4円(140g198円)で売られていた。
手が込んでいるはずのハムのほうが、なぜ安いのか。
「日本の安いハムに多いのは、肉と水の割合を1対1くらいにして作った商品です。アメリカやカナダなどから輸入した安い豚肉に、保存料や発色剤、調味料などが入った液体を注入して増量しています。
その水分が染み出さないように、さらに添加物が使われる。加工品の中でも、ハムはかなり添加物量が多い食品なのです」(鈴鹿医療科学大学薬学部客員教授の中村幹雄氏)
つまり、こうして作られたハムの半分は、添加物だらけの水でできている。逆に言えば、本物の肉は半分しか使われていないので、肉そのものよりも安く売ることができる。
スーパーなどで売られている牛乳は、農場で搾乳されたものが殺菌処理されてパック詰めされている。それが常識と思ったら大間違い。とくに、安価な牛乳は注意したほうがよさそうだ。
「表示に『加工乳』または『乳飲料』と書かれているものは、純粋な牛乳とは別物です。本物の生乳も50%以上は含まれていますが、還元乳と呼ばれる脱脂粉乳と無塩バターを水で溶かしたものを加え、調整されています。原材料名にはこれが『乳製品』と表示される。低脂肪乳やカルシウムなどがプラスされているような商品はこうして作られているんです。
脱脂粉乳の代わりに、より安い輸入ホエー(チーズを作る際に分離される水溶液)を使ってさらにコストを下げているものもあります」(食品ジャーナリスト・郡司和夫氏)
「低脂肪」などと聞くと、さも体によさそうなイメージがあるが、じつはコストを下げるための製法だったのだ。生乳100%の牛乳だけが「牛乳」と表示できるため、それが「本物」の牛乳かどうかを見分けるには、パッケージを確認すればいい。
ちなみに、産地が記載されていないものは、さまざまな産地で取られた牛乳がブレンドされているものがほとんどだという。
ところで、この「牛乳もどき」に限らず、体にいいと思ってあえて選んでいる食品ほど、じつは「本物」ではない商品が多いというのが食品業界の常識でもある。典型的なのは、カロリーハーフのマヨネーズ。
「マヨネーズは、酢と卵黄、油、塩だけで作られたものですが、『カロリーハーフ』『カロリー1/2』などの商品は、油を半分にしてゼラチンや加工でんぷんでカサ増しされています。マヨネーズとは謳えないため、原材料名表示には『サラダクリーミードレッシング』とわけのわからない名前が書いてある。
コンビニや外食産業では、卵を一切使わず、代わりに乳化剤を使った半固体状ドレッシングが使われている」(前出・安部氏)
乳化剤は、水と油を混ぜる界面活性剤、つまり洗剤のようなもの。
また加工でんぷんとは、イモなどのでんぷんを色々な化学薬品を使って処理した合成添加物のことだ。リン酸化でんぷんなど11種類が食品添加物として認められているが、「発がん性の疑いがある物質が残存する可能性があり、欧米では使用制限があるのですが、日本では規制されていない」(消費者問題研究所代表・垣田達哉氏)という。安価に食品のカサ増しができるため、日本ではさまざまな食品に利用されている。
とくに含有量が多いのが、かまぼこだ。食品会社研究室室長の小薮浩二郎氏が解説する。
「スケソウダラなどのすり身だけでなく、植物たんぱくや加工でんぷん、リン酸塩を大量に加えて作られているものが多いんです。1kgのすり身から、4~5kgのかまぼこができる。やり方次第では、添加物で10倍近くにも増量することが可能です。本来、かまぼこは水産練り製品ですが、主原料が植物たんぱくや加工でんぷんなら農産練り製品というべきかもしれません」
安価に食品を作るために、添加物を利用してカサを増す手法は他にもある。醤油もどきの調味料にも含まれていた脱脂加工大豆だ。「大豆たんぱく」「脱脂大豆」などとも表示される。
「ほとんどの加工食品の主原料になっているといっても過言ではありません。これは要するに、大豆カスです。サラダ油などに使われる油を搾り取ったあとの大豆のカスが、アメリカやカナダなどから輸入されています。
ハムやハンバーグ、ミートボールなど安い加工肉では、カサ増しするためにこれが使われることが多い。中には、豆腐や納豆に使われていることもある。脱脂加工大豆を固めて作るんです。見た目にはわからないでしょうね」(前出・郡司氏)
「家畜の飼料」まで使われる
この脱脂加工大豆を使って、こんなニセモノ食品も作られているという。
「脱脂加工大豆を粒状に加工して、茶色く着色したものがミンチ肉として使われています。’09年に日本の規定が改定されて、植物性たんぱくを着色してもいいことになったんです。
これは、見た目も食感も本来のミンチ肉とほとんどかわりません。業務用では、着色した〝ミンチ肉〟に牛脂、牛肉エキスなどを加えたものが牛肉コロッケとしてかなり流通しています」(前出・中村氏)
なお、脱脂加工大豆には安全性についてこんな懸念がある。
「この脱脂加工大豆、日本に輸入される際は、食用ではなく家畜の飼料用として入ってきているんです。それを、悪質な食品業者は、飼料を扱っている業者から買っています。
食用として輸入するよりも10分の1以下の関税で済んでいるので、とても安く手に入れられる。問題は、飼料用としての輸入だと、残留農薬などのチェックが非常に甘いということ。さらに、その99・9%が遺伝子組み換え大豆です」(前出・郡司氏)
実際に人体にどれほどの影響が出るのかといったデータはないが、こうした工程を経て、我々の口に入っているということは知っておくべきだろう。
それ以外の食品については、上の表に示したので参考にしてほしい。身近な食品が、じつは従来の製法とはまったく異なる作られ方をしていることは驚くほど多い。これは、消費者の「安く美味しいものが食べたい」というニーズに応えるために磨き上げられてきた技術の賜物とも言える。
果たして、これまで紹介してきたような事実を知ってもなお、「技術の進歩は素晴らしい」と言って、食べる気になるかどうか。前出の福岡氏が語る。
「消費者は、価格だけで商品を選びすぎではないでしょうか。安全や手間ひま、生産工程の可視化のためには、それなりのコストがかかることを自覚するべきです。同じ商品でも、なぜ価格差があるのか、考えなくてはならない。そして、できれば安全のためのコストがかかった50円でも高いほうを選ぶべき。その50円が暴利なのか、合理なのかを見極める眼が必要な時代になっていると思います。
本来、食は、長い歴史や文化、風土によって選び取られてきました。それは生物と環境の相互作用、つまり動的平衡のバランスの上に成り立っていた。それを崩すような食品が増えすぎているのではないか」
高度な技術によって作られた「本物ではない食べ物」が、私たちの体にどんな作用を及ぼすかは未知数だ。一度、自分の食を見直してみてはどうか。

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