日本の投資家にババを引かせる「ジャパニーズ・テイクアウト」

こういう文章は頭がスッキリする
採録?
ーーーーー
アベノミクスの提灯持ちの「大きな声」に騙されてはいけない?真実を語る「小さな声」に耳を傾けよ
日本人が個人で設立し、初めて米国証券取引委員会に登録された投資銀行、ロバーツ・ミタニの創業者として、ヘッジファンドなどの「強欲資本主義」を厳しく批判している神谷秀樹氏。このほど『人間復興なくして経済復興なし!』(亜紀書房)を上梓したのを機に、ニューヨークから見たアベノミクスへの憂慮と危機感を語っていただいた。
■バブルを煽る言説に騙されるな!
――神谷さんは「アベノミクスは投機家を喜ばせるだけ」と警鐘を鳴らしていらっしゃいます。また、最新刊の『人間復興なくして経済復興なし!』(亜紀書房)では、「安倍政権絡みのニュースが伝えられるたびに、『2013年の経済危機は日本製になる』という趣旨の論調が欧米のメディアには多く掲載されたが、日本ではほとんど無視されている」と書かれています。実際、欧米メディアでどのように報じられているのか、教えていただけませんか?
目に留まった記事を全部スクラップしている訳ではないので、いつのどの新聞のどの記事というようなことをご披露できませんが、例えばファイナンシャル・タイムズ誌が黒田総裁就任時に掲載したBank of Japan: A Revolution in Monetary Aggressionという記事にまとめた6つの表は、1.「成長しているリアルGDP」2.「安定しているCPI(消費者物価指数)」3.「大問題のネット政府負債」4.「大問題の財政赤字」5.「大問題の日銀が抱え込む国債残高の比率(2012年18%が14年に39%に上昇)」6.「既にFED(連邦準備制度)、欧州中銀(20%弱)対比はるかに高い日銀の対GDPベース・マネー比率(30%弱)が、今後2年で異常に膨らむ(50%超)」
というのを一見して読み取れるように報じており、そのコピーを私も説明によく使わせてもらいました。同誌の4月11日付けギリアン・テット氏のMarkets Insight: Japan Should Heed Lessons of Volcker’s Warなども良い記事です(「日本はボルカーの『戦争』から教訓を学べ」JBpressに翻訳掲載)。
聞こえの良いことを大きな声で語れば、その言葉に多くの人が耳を傾けます。厳しいが、真理を捉えていることを語っても、人々は耳を塞ぎがちです。
それはバブルを煽る投機家たちにとっては極めて都合の良いことです。
?「アベノミクスで過剰流動性が供給され始めるから日本株を買え」とヘッジファンドの連中が言い出し、彼らは提灯に灯りをともしました。外国証券ほか「提灯持ち」が、日本の投資家に「日本株を買いなさい」と売り込んだり、たくさんの投信を設定したりしました。
■日本の投資家にババを引かせる「ジャパニーズ・テイクアウト」
こうして株価が上がり、「アベノミクス成功だ」と熱狂し始めると、5月の初旬には、提灯に灯をともした連中はさっさと売り抜き、今度は空売りも始めました。提灯持ちの後についてきた人々は皆大損しました。酷い話ですが、これは「いつものパターン」です。
海外の政府の人々もアベノミクスは賛成だと言っているという報道はたくさんなされました。なぜか。彼らは自分の資金はもう引き上げたくて、代わりが欲しいのです。バブルの形成時、最後から一人手前までの参加者は、皆値上がりで儲けます。「最後の買い手」がババを引いて大損します。日本の投資家はいつも遅れてやってきて、最後にババを引いていってくれるかっこうの売りぬき先なのです。これもパターン化し、「ジャパニーズ・テイクアウト」と呼ばれています。欧州の中小金融機関、中東の王様、日本の投資家などを、どうバブルの最後に巻き込むかは、彼らにとっては重要な課題です。彼らは「買ってるよ、買ってるよ」ということはメディアにどんどん流しますが、「もう逃げるよ」という予告などしてくれません。日本のメディアの多くは、彼らにとっては証券会社のレポート書き(セル・サイド・アナリスト)同様に、使いやすい道具にされがちです。
そういうゲームなのだということを知って、海外のあらゆる報道に接し、「真実を言っている小さな声」に耳を傾け始めれば、世界は全く異なる姿に見えてきます。しかし日本の報道の多くは「政府寄りの聞こえの良い、大きな声の人の意見」を採り上げがちで、「大勢が言っているのとは異なる意見」は、あまり掲載しません。英文の新聞、オンライン誌、ブロガーの意見などを細かに拾って行けば、誰が「提灯持ち」で、誰が真の意見を言っているかは、自ずと判断できるようになります。
もっとも日本のメディアを十把一絡げにして批判することは間違っています。例えば『文芸春秋』は4月号に拙著「アベノミクス『危険な熱狂』」という論文を掲載してくれました。『日刊ゲンダイ』は一流経済紙とは言えないと思いますが、中産階級の庶民の視点で、正しい意見を論説するように努めておられるように拝察しています。
――「2013年の経済危機」を回避するために、何をすべきでしょうか?
アベノミクスによる過剰流動性の供与を直ちに止めることです。「インフレ率を上げて、長期金利を抑制する」というのは自己矛盾です。インフレ率が上がるなら、当然長期金利は上がります。急速に起これば、債券を保有している金融機関は債券価格の低下で破綻し、国家も破綻です。例えば国債の平均金利が目標インフレ率2%プラス1.5%の3.5%になったとしましょう。1000兆円の借り入れに対する金利は35兆円。日本の税収は今40兆円そこそこです。税収のほとんどを金利の支払いだけに充当することはもちろんできません。
財政の健全化は進め、信用構築を重視することを怠ってはいけません。法人税を下げたいのであれば、その分消費税を上げるか支出を抑えなければいけません。欧州諸国の法人税率は日本よりは低いですが、消費税はみな20%以上です。消費増税は見送り、法人税は引き下げ、支出は増やした、というような話は成立しないのです。
経済成長を目指すには、イノベーションを推し進めることです。個別具体案を積み上げることが重要で、「看板あって中身なし」の新機関創設、「多言にて意味不明」な政策、「空想に過ぎない数値目標」を掲げても失望を誘うだけです。
中産階級の可処分所得の増加なくして、経済活動は活発化しません。非正規雇用者を増やし、円安で農家や漁民の薄利を、原燃料コストの上昇で奪ったりし、低所得層を増やせば増やすほど、国家の衰退は早まります。
?「いったい誰のための何のための経済政策なのか」を問い続けることを怠ってはいけません。
■日銀がお札を刷って解決できる問題ではない
――ご著書の中で下村治博士の「ゼロ成長論」を支持しておられますが、ゼロ成長とイノベーションを起こすことは矛盾しないのでしょうか?
?「ゼロ成長論」の最も重要なポイントは、日本ほか多くの先進国が同じ状況ですが、人口が減少し、高齢者比率が高まり、労働人口比率が低下し、中産階級の膨張と可処分所得の急増が望めないときには、経済全般というパイが急増して行くようなファンダメンタルズはなくなったという現実を認識することです。
戦後ベビーブームが起きて人口が増え、復興需要があり、所得倍増計画を実行できたような環境と現在は大きく異なります。一人当たりの経済活動規模が同じで、参加人数が減少するならば、設備は需要に対して常に余ってゆくのが自然です。デフレが自然なのです。この自然減を上回る活動を起さなければ、現状維持、即ち「ゼロ成長」もできません。これは日銀がお札を刷って解決できる問題ではないのです。
一方、養う人が減り、養われる人が増え続けるのであれば、養う側の人は、よっぽど生産性を上げないと、全員の生活水準を維持することが出来ません。この生産性向上をもたらすのはイノベーション以外の何物でもありません。

2013-08-06 14:00