経営とは何でしょうか。いろいろな考え方があるとは思いますが、私は「1人でも多くの人を幸せにする技術」だと思っています。そして、その手段の1つが、売上を上げ、利益を上げることだと思います。
もう1つ、別の視点から見てみましょう。
経営が、社会との関わりの中で生み出さなければいけないことは、「納税」と「雇用」の2つです。1円でも多く税金を払って、1人でも多くの人を雇う。実は経営の本質はここにあります。なぜなら、私たちの社会は税金と雇用によって動いているからです。
今、私は11月から始めた「経営勉強会」で、60人余りの皆さんに経営とは何かを学んでもらっています。この勉強会で学んだ人たちに、事業をどんどん興してもらえば、地域に働く場ができて、雇用が生まれていきます。その結果として多くの人に「希望」を感じてもらいたい。それが、この勉強会の目的なのです。
経営とは技術だと私は思っています。経営の技術は、伝えられる部分もあります。これから皆さんに、私が持つ経営の技術を伝えていきたいと思います。
経営者がやるべき3つのこと
経営の技術の本質は何か。これは3つあります。おそらく、どの経営の本を読んでも、どの経営学者に聞いても、必ずこの3つにたどり着きます。それは「理念(ミッション)」「ビジョン」「戦略」です。
つまり、何のためにその事業をやるのか、という理念(ミッション)。2番目はどこに向かっていくのかというビジョン。そして、3番目がそれをどのようにやるのかという戦略です。経営者がやらなければならないのは、この3つだけです。
[1]理念(ミッション)
企業は法人ですから、法として人として認められたものです。つまり人間と全く同じ。そう考えると一番大事なのは、その企業が何のために存在するのかということです。このことをまず明確にしなければなりません。
例えば、社内には仲間、つまり社員がいます。何のために我々は仲間になるのでしょう。「8時間働いてもらう代わりにお金を20万円払うよ」というように、彼らの時間を買うために社員にするのでしょうか。もしそうなら、非常に悲しいことですよね。
仲間を集めるための「理念」
「経営勉強会」の様子画像のクリックで拡大表示 私はワタミという会社を通じて外食産業に入りました。外食の経営目的に「1人でも多くのお客様にあらゆる出会いとふれあいの場と安らぎの空間を提供すること」を掲げています。つまり1人でも多くの人の思い出に関わって、1人でも多くの人の笑顔に触れたいのです。だから、この言葉を最初の経営理念にしました。
我々はお客様が喜ぶこと、望むことは何でもさせていただこうと決めました。お客様の幸せを追求していくことを、我々の目的にしたのです。そこに存在意義があったのです。
すると、「そういうお店で働きたい」と言う人が集まってきました。会社の目的があり、人の人生にもそれぞれの目的がある。その2つが重なった時、社員は単なる従業員ではなく1人の主人公になっていくのです。企業は、目的を同じくする人を何人集められるかで、その強さが決まります。
1人では仕事はできません。仲間が必要です。その仲間を作るためにも、何のためにこの会社があるのかという理念(ミッション)を明確にしなければならないのです。
[2]ビジョン
1人でも多くのお客様に幸せを感じてもらいたいと思う仲間がワタミに集まりました。さて、その次は、どこに向かっていくのかを決めなければなりません。私は当初、10年で店頭公開することを目標に掲げました。
当時、10年で店頭公開できる確率は100万分の17。しかも、外食産業でそれを実現した会社は1つもありませんでした。つまり、外食産業の中で最短で上場企業をつくることを最初のビジョンにしたのです。そして、その次のビジョンは2008年に店を1000店舗展開することにしました。
さて、ここからが大事なところです。そのビジョンをどう具体的に実現するのかを明確にするのです。言い換えれば、このビジョンを実現する道筋を決めなければなりません。
ビジョンを戦略へ落とし込むのは科学
[3]戦略
居酒屋1店舗には、必要とされる商圏人口があります。私が外食を始めた当時、日本の居酒屋市場の規模は約2兆円でした。その市場の中で「和民」1店舗が成立する商圏人口はおよそ3万人でした。日本の人口(約1億2000万人)からすると約4000店舗できるわけです。
しかし、人口の集中具合にも左右されるので、実はもう少し絞り込まなければなりません。3万人が4キロメートル以内に住んでいるところを探すのです。日本中すべて分析していくと2000カ所くらいありました。さらに、競合店や物流の問題を勘案してさらに絞り込むと、約1000店舗が成立することが理論的に分かりました。
では「商圏人口3万人で成立する」とは、もう少し分析するとどういうことでしょうか。3万人全員がお店に来るわけではないからです。
お店に来るのはどの層でしょうか。20代ですか40代ですか。そのうちのどういう人ですか。お酒をある程度飲む人ですか。外食を中心とする人ですか。そうすると3万人のうちの主要顧客は7000人くらいしかいません。ではそこから、その7000人の方が定期的に来店してもらえるようにするには、どうしたらよいか考える。
我々は「1カ月に2.4回来店」と設定してます。7000人の方に毎月平均2.4回利用してもらうためには、どういうメニューが必要で、どういうカテゴリーが必要で、どういう価格帯ではなければならないかを分析していきます。
これはたった1つの店についての立地戦略という小さな例です。こう考えてみると、ビジョンを戦略へ落とし込むのは科学だと分かっていただけると思います。要は誰もが理解できるストーリーをつくり上げることが大切なのです。
なぜ5年間の伸び率に大きな差がつくのか
続いて、「理念」「ビジョン」「戦略」という経営技術のもう1つ別な側面について説明しましょう。
先日、ワタミの全体会議がありました。日本全国の社員約5000人を東西に分けて、年に2回、開催しています。そこで話している最も大事なことがこの理念です。5000人の社員と3万人のアルバイトに対して「何のためにここに集まっているのか」「何のために我々はこの事業をやるのか」「我々はどこに向かって歩んでいくのか」などについて繰り返し、繰り返し、確認するための会議です。
今回のワタミの会議のメーンテーマは、これから始まる「5カ年計画」でした。
今、ワタミには3本の柱があります。「外食」「介護」「高齢者向け宅配」です。この5カ年計画でワタミグループは1300億円から2500億円へと売り上げをほぼ倍増する計画です。
その内訳を説明しましょう。
「経営勉強会」の様子 今800億円の外食は、5年後も800億円のままです。そして、250億円の介護は500億円になるでしょう。100億円の高齢者向け宅配も1000億円になるでしょう。つまり、外食はそのまま、介護は約2倍、高齢者向け宅配は10倍です。5年間の計画でこれだけの差が出てくる。いったいこれは何なのだろうか。ここにも経営の本質があります。
外食の人間が頑張っていないからでしょうか、やる気がないのでしょうか。もちろん、そうではありません。
外食、特に日本の居酒屋市場は、バブルの頃の2兆円から半減しました。にも関わらず業界全体の総店舗数は変わっていません。さらに、これからの5年間で居酒屋マーケットは8000億円まで減っていくと思います。今後は、採算の合わなくなった店を閉鎖してはリロケートして作り直してみるといった試行錯誤(スクラップアンドビルド)を繰り返しながら、売上を維持するのがやっとでしょう。
「時流」を無視して経営してはいけない
一方、介護と高齢者向け宅配はどうか。
日本では2025年に向けてどんどん高齢者人口が増えていきますね。だから、我々が今後80カ所、90カ所という規模で介護を手がける老人ホームを展開していけば700億円くらいの売上になります。
次に、高齢者向け宅配です。独居老人は2020年に300万人になると言われています。このうち、ワタミタクショク(以下、タクショク)は150万人の方にお弁当をお届けする計画です。この計画は絵空事ではありません。3年前、4万食から始めた事業が、今や20万食になっているからです。つまり3年で約5倍です。
これはタクショクが頑張ったからなのでしょうか。もちろん、それだけではありませんね。
経営というのはこれだけをみても非常に理不尽なんです。だって、同じだけ頑張ってもこれだけ差がついてしまうのですから。だから、経営において一番意識しなければならないことは「時流」です。これを無視して、経営を考えては絶対いけません。
時流とはいったい何か。それは、時代が何を求めているのかということです。時代が求めていないことをやっても、そこに「ありがとう」が生まれない。「ありがとう」は時代の要請なんです。時代の要請をしっかり捕まえることなのです。
高齢者向け事業には世の中の応援がいっぱいある。だから介護やタクショクは大きくなる。外食に対する世の中からの応援は減ってしまう。ただそれだけとも言える。これから事業をやろうと考えている人は、「その事業は時流があるのか」「その事業は世の中が求めているのか」「その事業にはありがとうが集まるのか」を考えてもらいたいと思います。
ビジネスモデルは鍛え続ける
2つ目はビジネスモデル。これは一言で言うと経営の仕組みです。「和民」のビジネスモデルは、自社有機農場の食材を使い、手づくりで、たくさんのアイテムを使って、季節感を出し、そして安く提供することです。
創業から、通常ならば賃金が高い職人さんがしている作業を、自社内集中仕込みセンターを稼動させるまで、主婦のパートさんにやってもらっていました。包丁のプロであるパートさんは、営業時間前までの仕込みの時間に働き、約2000人のパートさんを組織化しました。
「和民」は20年間、居酒屋業界のリーディングカンパニーとして走り続けてきましたし、恐らく今後10年間もこの立場に居続けることはできるでしょう。こういうビジネスモデル、つまり、勝つための形、その会社にしかできないものをつくり上げたからです。
でも、こうやって話してしまえば「うちでもやろう」と真似するところも出てくるでしょうね。パートさんを使いさえすれば、形としては同じことができるのですから。だけども、そんなに簡単なことばかりではありません。例えば有機の食材を例に挙げてみましょう。
日本全体で有機野菜は野菜全体の0.17%しかありません。そんな中、ワタミグループは490ヘクタールの農地を持つ有機農業では最大級の生産法人を持っています。自社農場と合わせて、各地域に根ざした有機農業を進め、日本全国の契約農家の方々と協力体制を組み、有機・特別栽培食材を仕入れています。
つまり、有機食材を使うことにおいて参入障壁をつくったわけです。小規模ならまねもできるでしょうが、数百店舗規模で展開するライバルの居酒屋では十分に食材が集められないでしょう。つまり、他社が追いついてくるようなら、自分はもっと先に行けばいいのです。事業は、いったん勝てるビジネスモデルをつくっても、それをさらに強くし、高めていくことが非常に重要です。
社員と「幸せ感」を共鳴させる
3つ目は企業文化です。どんな小さな会社でも考えなければならないことです。
企業には、それぞれ「らしさ」があります。多くの場合、経営者の性格や人柄、価値観を反映したものです。企業の「らしさ」、つまり企業文化は、価値観と密接につながっています。経営者が何を大事にしているかということです。
もう少し分かりやすく言うと、「幸せ感」とでも言うのでしょうか。経営者がどんな幸せ感を持っているのか、そして、それが社員の幸せ感とどれだけ共通しているかが重要なのです。両者が重なる部分が、実は企業文化をつくっていて、企業文化がビジネスモデルを規定していくのです。
次回は、ビジネスモデルを規定する企業の「価値観」について、もう少し掘り下げ、企業が成功するために欠かせない「諦めない」ということ、「運を良くする」ということについて話していきましょう。
私のビジネスモデルは、価値観や幸せ感に基づいて出来上がってきたものです。本当の経営はそうあるべきだと思っています。つまり、ビジネスモデルは、その経営者の生き様そのものと言うこともできるのです。
お金が儲かるか儲からないかは、二の次。儲けばかり求めても逃げていくだけです。結果としてそれが正しいことで、「ありがとう」を集められれば売上はついてきます。そして、創意工夫があれば売上から利益は生まれてくる。だから一番大事だと思うのは、皆さんが何に対して幸せだと思うか、どういう価値観に基づいて企業を作り、その企業文化を立ち上げたいと思っているか、だと思います。
ワタミグループの新卒内定者にいつも私が話すのは、この会社は誰にとっても良い会社ではないですよ、ということです。つまり最大公約数としての価値観が共通していないと、幸せではないと話しているのです。
月収が30万円下がってもやりたいこと
20年間外食を経営し、今から7年前に介護事業を始めました。この国の高齢者の方々があまり幸せでない状況を目の当たりにして、この方々のために何かできるのではないかと考えたからです。外食で培った、おいしいお食事を良い雰囲気で良いサービスとともに、しかも安く提供するという経営の技術が、介護業界において役に立つ、ご高齢者からありがとうが集まるのではないかと思いました。
経営勉強会の様子画像のクリックで拡大表示 介護の経験は全くありません。普通は経営者の思いつきで新規事業を始めることは非常にリスクが大きく、当然当社の役員全員から反対されました。しかし、すべて私の責任でやるということで、93億5000万円の借金をして、神奈川を中心に介護付き有料老人ホームを運営していた会社をM&Aすることで介護事業へ参入しました。それがワタミの介護です。
では、なぜ私は介護をどうしてもやりたかったのか。そこにいるおじいちゃん、おばあちゃんの笑顔が頭からこびりついて離れなかったからです。その思いを形にしようとしたのですが、介護業界の常識が壁になりました。それは、従来の介護が「どうやったら楽にできるか」という基準で動いていたことです。
それを私は一つひとつ覆しました。例えば、「要介護5(最も重度)」の寝たきりのご入居者様に対して、我々は死ぬほどの努力をさせていただきます。その結果「要支援1(最も軽度)」になった方もいます。ただし、重度が軽度になると、介護保険の取り決めによって我々の収入は月間30万円以上下がるのです。
考えてみてください。自分の収入を毎月30万円減らすために、死ぬほど努力する人がいるでしょうか。お風呂も週2回でよくて、ゆっくり気持ちよく入ってもらったからといってたくさん点数(報酬)をもらえるわけではないのです。介護する側は、いかに短時間でお風呂に入れようかと考えそうなものですよね。
あなたの幸せは何ですか
ご入居者様の幸せが自分の幸せである。ご入居者様が笑顔でいてくれるのがうれしい。お金よりもそれが楽しい。そういう価値観の前提がないと、元気になってもらおうという発想は生まれてこない。従来の介護業界の仕組みでは、いかに楽をするかという考えが当たり前だったのです。
けれども、私はM&Aをし、そこにいた600人の社員に「私は自分の父親や母親に対するのと同じことをしたい」と言いました。結果的に、今までの介護の常識と全然違うことになった。今まで彼らがやってきたのは、お風呂は週に2日だけで、食事にかける時間は1食当たり30分。自分たちがどうしたら楽になるかを考え、それが仕組みになってしまっていた。
私の方針に沿った内容に改めていった結果、600人いた社員の3分の1くらいが辞めていきました。そのとき皆が残した言葉は、「私達の幸せはどこにあるのですか」でした。
長時間労働をさせたわけではないのに、「私たちは朝から晩まで働きっぱなしではないですか」と言う。そこで私が「あの元気になったおじいちゃん、おばあちゃんの笑顔を見ることは、あなたにとって幸せではないのですか」と聞いたら黙ってしまいました。辞めていった人たちを非難しようとは思いません。良い悪いではなく、それは人それぞれの人生観なのです。
仕事は人間が成長するための一手段
今、私の会社の幸せ感とは、以下のようなものです。
「人間とはカネや地位や名誉ではない」 「人間は大きな夢を描いて、その夢に向かって1歩ずつ進んで行く」 「そのプロセスの中に仕事や会社があった」 「そして、その価値観を共有できるあなたと出会うことができた」 「そのありがとうを1つでも多く集めよう」
つまり、人間はどれだけたくさんのありがとうを集めて、それを糧に成長できるかが肝心です。仕事というのは人間が成長するためのステージであり、自分を磨くための1つの手段だという考え方を私は強烈に持っています。
本気でそう思う人だけ一緒に仕事をしましょう。結果としてこの価値観に賛同してくれる人がいなくて、会社が小さくなっても仕方がない。人がそれぞれその人らしいことが一番大事だと私は思います。
企業も皆さんの会社らしいことが一番大事なんです。誰のまねもせず皆さんの生き方そのものが会社であれば、それで100点なんです。そのためには、自分は何を表現したいのか、何が大切なのかを明確にしないとなりません。
価値観は「こうあるべき」という普遍的なものではありません。今の正直なことを言葉にする、それを形にしていく、それが経営というものだと思っています。
5億円を捨てる覚悟
事業というのは必ず困難があります。困難がない事業なんてありません。私は居酒屋の4店舗目を出した頃に経営危機に陥りました。社員には頭を下げて、「ごめん。今月、給料はゼロです」と言ったことが何度もあります。
それはほんのちょっとの違いなんです。心が負けているか、負けていないか。下っ腹に力を入れて、絶対に負けないと思って息を止めている状況を自分がどこまで我慢できるか。
経営は格闘技です。綺麗ごとではないのです。相手の喉に食らいついたら、死ぬまで離さない覚悟がないと経営はできない。でも経営者の心が負けたら、もうそこで終わりです。つまり事業の限界は経営者が決めるのです。今がどんなに良くても、死ぬまでは「途中経過」に過ぎない。その覚悟がなければ経営はできないし、私もとにかく諦めません。
(居酒屋チェーンの)「つぼ八」を13店舗やっていた時期があります。1店舗当たり毎月300万円利益が出ていました。つまり13店舗で月間約4000万円、年間5億円の利益です。そして居食屋「和民」という店をつくりました。自分が経営し、うまくいかなかくなったお好み焼きチェーンを潰すことになり、そのチェーン17店舗の従業員の受け皿とするためです。
そうしたら、「つぼ八」の本部からあんな、まねするような業態をやるのなら、13店舗のつぼ八の看板を下ろすか、和民をやめるよう言われました。こっちは海のもとのと山のものとも分からない和民です。しかもスタートしたばかりだったので300万円の赤字でした。つぼ八は5億円の黒字なのに、ですよ。
さあどうするか。
勝つか負けるかを全部度外視して、その存在のためだけに戦わなければいけない時もあります。「つぼ八」13店舗を継続すると判断した段階で、私はもう自分が自分でなくなると思いました。自分らしくない判断をしたら、その時は勝った気になるかもしれないが、いつか必ず負ける。
私はその時13店舗と5億円を捨てる決断をしました。1年かけて「つぼ八」を「和民」に切り替えていく契約をしたのです。
単純に考えれば、毎月300万円の黒字だった店が、300万円の赤字になる。合わせて1店舗当たりの資金繰りは毎月600万円ずつ悪化する。誰が考えても、あと4カ月でこの会社は潰れるという状況です。でも、諦めなかった。何とかなると。
その時、もうダメだと思うのは、自分に経験と知識がないからだと考えたのです。もし違う人が違う能力と経験、知識をもって臨んだなら突破できるかもしれない。つまり、とり得る方法は無限大なんだというのが、私が自分にかける「呪文」なんです。もし、私が局面局面で諦めていたら、ワタミという会社は10回くらい潰れていたでしょう。でも諦めなかった。だから、今があるのです。
濡れ手で粟で1億円儲けるわけにいかない
そうは言っても運は大事です。皆さん経営をされるのなら、ぜひ運の良い経営者でいてください。今、ワタミがあるのは、諦めなかったこともありますが「よく、あの時にあの人が現れてくれた」と思えるような出会いがあったからでもあります。本当に私は運が良かった。
では、運が良くなるにはどうしたら良いか。そこにいる神様に「応援してやろう」と思わせられるかだと思うのです。
バブルの時、こんなことがありました。ある銀行が2億円の融資話を持ってきて「この土地を買ってくれたら、1年後に3億円で買い戻します」と約束するんです。でも、お金には色があると思っている私は、どうしてもそういう話は好きじゃない。ビール1本売って10円儲けさせていただいている和民が、濡れ手で粟で1億円儲けるわけにはいかない。汗を流さないお金は、お金ではないという概念の中で経営してるのです。
たぶん、神様はそういう経営者を応援してくれるのではないかと思うんです。だから私は運が良く、事業もすごくうまくいっているのでしょう。
ワタミグループには体系化した経営理念があります。これは、会社としてなぜ運が良かったかを分析した結果をまとめたものでもあります。これがワタミのグループ憲章になっているのです。
この中には「額に汗した利益のみを利益と認める」とあります。つまり、額に汗しない利益は1円だっていらないということです。それを神様が応援してくれているのでしょう。もし、これに外れるようなことをやったら、神様は我々を見放すのではないでしょうか。「すべてのことは損得でなく、善悪で判断しろ」。ぜひ、皆さんも運の良い経営者になるために考えてみてください。