マインドフルネスが脳に与える影響について、近年数々の研究成果が発表されている。本記事では、ビジネスパーソンに特に関係のある2つの脳部位について報告する。?
ビジネスの世界では、マインドフルネスがもてはやされている。だが、その効果は単なる評判ではなく自然科学の裏づけがある、と知っている人は多くないかもしれない。近年の研究結果からは、主観的な判断をせず意識を「いまこの時」に集中させること(すなわちマインドフルネス)によって、脳に変化が生じるという強力な科学的根拠が得られている。これはすべてのリーダーはもちろんのこと、今日の複雑なビジネス環境で働く誰もが知っておくべき事実である。
我々は2011年にこのテーマの研究に携わり、8週間のマインドフルネス・プログラムを体験した被験者たちを調査した。すると、脳の灰白質の密度に有意な増加が認められた(英語論文)。
その後、マインドフルネスの主な実践法である瞑想が脳に与える変化について、世界各地の神経科学の研究チームが解明に取り組んできた。2014年、ブリティッシュコロンビア大学とケムニッツ工科大学から集結した科学者らのチームが、20件以上の試験で得られたデータをメタ解析し、脳のどの部分が常に影響を受けているかを判定することに成功した(英語論文)。特定された8つの脳領域のうち、ビジネスパーソンにとって特に関係が深いと思われる2つについて以下に説明しよう。
1つ目は前頭の奥深く、前頭葉の後ろ側にある前帯状皮質(ACC)と呼ばれる部位だ。ACCは自己制御力に関わっている。つまり、みずからの注意と行動の対象を意図的に決め、その場にふさわしくない反射的な行動を抑え、臨機応変に対応する能力である。ACCに損傷がある人は衝動性を示し、攻撃性に歯止めがきかなくなる。また、ACCと他の脳領域との連結に支障がある人は、思考柔軟性のテストで成績が低いという結果が得られている。これらの患者は問題解決に際し、たとえ自分の戦略が無効であってもそれに固執し、行動を変えようとしない傾向がある。
一方、瞑想の実践者はそうでない人と比べ、自己制御力のテストで優れた成績を示し、注意散漫の原因に気を取られずより多く正解できた。別の試験でも、瞑想する人のACCはしない人よりも活発になることが観察されている。またACCは自己制御力のみならず、過去の経験からの学習をもとに最適な意思決定を下す能力にも関わっている。不確実で急速に変化する状況において、ACCは特に重要な役割を担っているのだろうと科学者たちは指摘する。以下の2つの画像は、瞑想による変化を示している。
2つ目に焦点を当てたい脳の領域は、海馬である。我々の2011年のマインドフルネス・プログラムにおいて、被験者に灰白質の量の増加が見られた部位だ。タツノオトシゴ(ウミウマ)の形に似たこの部位は、大脳辺縁系――情動と記憶に関わる脳内構造物の総称――の一部であり、側頭葉の内側にある。海馬には、ストレスホルモンの1つであるコルチゾールと結合する受容体があるため、慢性的なストレスによってダメージを受ける恐れがあり、体内で悪循環を引き起こす原因となりうる。実際、うつ病やPTSDのようなストレス関連の障害を患っている人には、海馬の萎縮が見られる。
これらの事実は、海馬がレジリエンス(逆境から再起する力)に深く関わる部位であることを示している。レジリエンスは、現在の厳しいビジネス環境においてカギとなる能力の1つだ。
これらは研究成果のごく一部にすぎない。マインドフルネスを実践すると、知覚、身体感覚、疼痛耐性、情動制御、内省、複雑な思考、そして自己意識に関わる脳部位に変化を生じさせることも、神経科学者らは明らかにしている。長期的な変化を実証して根本的なメカニズムを解明するには、さらなる研究が必要ではあるが、これまでの一連の根拠には非常に説得力がある。
いまやマインドフルネスは、企業のリーダーにとって望ましいのではなく必須であろう。脳を健全に保ち、自己制御と意思決定能力を支え、有害なストレスから自分自身を守るための方法なのだ。メンタル・トレーニングとして実践してもよいし、宗教や精神生活の一環として取り入れてもよい。腰を下ろし、しっかり呼吸し、「いまこの時」にただ集中することで変化が期待できる。これを集団で行えば、効果はより顕著になるかもしれない。
HBR.ORG原文:Mindfulness Can Literally Change Your Brain January 08, 2015