自閉スペクトラム症の知覚体験シミュレーター
東京大と大阪大がヘッドマウントディスプレー型シミュレーターを開発
東京大学と大阪大学による研究グループは、自閉スペクトラム症の特異な知覚世界を体験できるヘッドマウントディスプレー(HMD)型知覚体験シミュレーターを開発した(図1)。研究グループには、大阪大学大学院工学研究科の特任准教授(常勤)の長井志江氏、博士前期課程2年の秦世博氏、教授の浅田稔氏、東京大学先端科学技術研究センターの特任講師の熊谷晋一郎氏、特任研究員の綾屋紗月氏が参画する。
今回の研究では、環境からのどのような視聴覚信号によって特異な知覚が生み出されるのかを解明するために、自閉スペクトラム症者が日常生活の経験に基づいて、自己の知覚世界を構成的に評価・報告できるシステムを開発。成人の自閉スペクトラム症者を対象にこのシステムを使って実験を行い、視覚のコントラスト強調や不鮮明化、グレースケール化、ノイズ発生といった症状が、環境からの低次の視聴覚信号と相関を持つことを明らかにした。この実験結果をもとにして、今回の知覚体験シミュレーターは開発されている。
知覚過敏・知覚鈍麻の症状をHMDを用いて再現することで、自閉スペクトラム症者が自己の症状を客観的に認識できるとともに、定型発達者も自閉スペクトラム症者の非定型な知覚が引き起こす社会性の困難さを主観的に評価できるという。さらに、このような感覚を共有することで自閉スペクトラム症に対する理解が深まるほか、有益な支援技術や設計原理の提案、社会構造の見直しなども期待されるとしている。