感謝の気持ちを持つ子供の育て方―「ありがとう」は大きな宝物

 ブランステンズ家の今風の白いダイニングテーブルでは、家族が手をとって毎晩、祈りをささげる。
 8歳のアリエールちゃんは、亡くなった祖父のホレスさんに感謝の気持ちを示す。祖父がどれだけユーモアがあったかを振り返り、「いなくなって寂しい」と話す。夕食に招かれていた小学3年生の友達も「私はこのソーセージに感謝します」と続ける。アリエールちゃんの母親で教育関連の非営利団体で働くリーラさんと夫で弁護士のピーターさんは、思わず笑みを浮かべずにはいられない。サンフランシスコに住む夫妻は、これ以上の台本は書けなかっただろう。大きなことにしても小さなことにしても、物事に感謝する気持ちを持つこと――これが子供たちがこうしたことを口にする理由だ。
 感謝をささげることはもはや、ホリデーシーズンの行事ではなくなっている。子供たちの感謝の気持ちに関する調査が増えている。これまでの調査結果では、この問題に力を入れたいという親たちの直感が的を得ていることが示されている。自分がいかに恵まれているかをよく考える子供たちは明確な恩恵を受けることになる。
 A field of research on gratitude in kids is emerging, and early findings show that kids who literally count their blessings show concrete benefits. Diana Kapp explains on Lunch Break. Photo: Getty Images.
 感謝の気持ちはまるで筋肉のように働く。わざわざ時間を割いて幸運であることに気づくと、感謝の気持ちが増すことがある。感謝の気持ちが少ない人々も、協調的な努力から最も多くを得る。イースタン・ワシントン大学の心理学教授フィリップ・ワトキンズ氏は「感謝療法は、こうした感謝の気持ちが最も少ない人々に最も効果がある」と話す。
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子供の前でけんかをする際の心得優秀な遺伝子も打ち負かし得る貧困―知能を左右するのは環境妊娠中のナッツ摂取、子供のアレルギー予防に役立つ可能性 スクール・サイコロジー・レビューに来年発表される予定の研究によると、寛大さの概念に関する1週間に及ぶ課程を受講した122人の小学生に、感謝の気持ちが育った。高まった感謝の気持ちは行動に反映された。このカリキュラムを受講した小学生の44%がお礼のカードを書くことを選んだ。一方、受講しなかった子供たちのグループの中でお礼のカードを書いたのは25%だった。
 カリフォルニア大学デービス校の心理学教授ロバート・エモンズ氏は「美徳は教えられるものではなく、習得するものだという古い格言が当てはまる」と指摘する。「親たちには耳が痛いだろうが、自分たち自身が持っていないものを自分の子供に与えることはできない」と語る。
 ワトキンズ博士はこれは明らかなようだが、多くの親には理解しがたいことだと話す。同氏は「われわれ大人が認識すべき最も重要なことは、私たちがそれほど感謝の念にあふれていないということだ」と述べている。
 調査では、感謝の言葉を述べるという行為だけでも実際の恩恵があることが示されている。ジャーナル・オブ・スクール・サイコロジー誌に発表された221人の子供を対象とする2008年の調査で、6年生と中学1年生に2週間におよび毎日、感謝することを5つリストアップするよう指示し、結果を分析した。3週間後には、5つの困ったことをリストアップするよう指示を受けた子供たちと比較して、学校についての見方が改善するとともに、生活に対する満足度も高まったことが示された。
 別の調査はニューヨーク市郊外の高校生1035人を対象に調査した。ジャーナル・オブ・ハッピネス・スタディーズに2010年に発表されたこの調査では、たとえば、自然の美に対する感謝の気持ちや他人に対する感謝など、強い感謝の気持ちを示した生徒たちのほうが感謝の念が少ない生徒たちよりも、学校の成績が良く、落ち込みや羨望の念が少なく、ものの見方がポジティブであることが分かった。
 さらに、物の購入や所有と成功や幸福を強く関連付ける高校生たちは学校の成績があまり良くなく、落ち込んだりネガティブな見方をしたりすることが多いことが報告された。ホフストラ大学の心理学準教授で、この研究結果の共同執筆者であるジェフリー・フローフ氏は「実利主義は、まるでちょうど鏡のように、感謝の念の正反対の効果がある」との見方を示す。
 オンラインショッピングでモノを手に入れることが容易になったため、商品価値も一段と認識しにくくなる可能性がある。米メリーランド州ベセスダの商業不動産向け金融会社ウォーカー・アンド・ダンロップを率いるウィリー・ウォーカー氏は「いまどき、子供のうちの1人が新しい靴が必要だとなると、妻はザッポス・ドットコム(靴を中心としたアパレル関連の通販)で色とサイズを選ぶと、翌日にはフェデックスの箱に入って届けられる。願うこともなく、優先順位をつけることもなく、手に入りそうにないものを欲するということもない。クリックするだけですぐに靴が玄関に届けられる」として、「それは頭がおかしくなりそうだ」と話す。
 ウォーカー氏は、自分が子供のころに手に入るまで数カ月も店頭に並んだ一足のプーマを眺めていたのとあまりにもかけ離れたこの現実に、できるときには消費を控えるという決意を強くしている。そのためウォーカー氏は3人の子供たちがギフトとして受け取った家庭用ゲーム機「Wii(ウィー)」をセットアップしていない。
 パーソナリティー・アンド・ソーシャル・サイコロジー・ブリトンに発表された、1976年から2007年に高校3年生35万5000人を対象にした実利主義に関する2013年の研究で、1970年代半ば以降、お金を多く欲しがる傾向が目立って強まっている一方、一生懸命働いてお金を稼ぎたいという気持ちは減っていることが分かった。調査対象となった学生のうち、05~07年は62%がたくさんのお金やいい物を持つことが重要だと答えたのに対し、1976~78年はこうした見方は48%に過ぎなかった。
 ビデオゲーム企業のエレクトロニック・アーツのエグゼクティブ・バイスプレジデント、ギャブリエル・トレダーノ氏は「このテーマは私たちにとって非常に大きい」と話す。トレダーノ氏夫妻は、9歳のアメリーと12歳のベンという2人の子供とともにサンフランシスコで暮らしている。夫妻は毎日、子供たちが上手にやったかについて喚起する方法を探すことをじっくり考えている。
 トレダーノ氏は「毎晩、家族で夕食を取り、料理を作ってくれたことに対して父親に感謝する」と話す。「私が一生懸命働いたからおいしい食事が取れることについて話す。呼んでも子供たちがテーブルに着かないと、他の人が努力をしたのだから、それは失礼だと教える」と語る。
 さらにトレダーノ氏夫妻は子供たちがそれなりの年齢になったら、アルバイトをさせると決めている。トレダーノ氏は「バックオフィスかキッチンで働くべきだ」とし、「そうしたところでは興味深く仕事熱心な人々が働いている。自分ほど恵まれていない友人がいると、感謝について一層学ぶことになる」と話す。
 研究者たちは、毎日の行動が大きな努力以上に重要かもしれないと指摘する。ホフストラ大のフローフ博士は「配偶者に感謝の意を表すこと。子供にも礼を述べること」と指摘。「『自分の部屋を掃除するといったような当然のことをするのになぜ感謝する必要があるのか』と言う親もいるが、これを強調することで、子供たちはこの考えを習得し、自ら行うようになる」と説明する。
 カリフォルニア大学デービス校のエモンズ博士は、感謝の気持ちを持つことは子供たちにとって、比較的容易だと確信している。「年をとるにつれて、人生のギブ・アンド・テークはお返しの期待などによって駆り立てられる。それに対して、子供たちは、感謝の気持ちに対する自然な親しみがある。感謝の気持ちに関しては親が子供たちから教えられるほうが、その反対の場合よりも多い」と述べた。
2017-08-27 02:22