"中国の株価が急上昇している。3月の末に3700ポイント台だった上海総合株指数は、4月の高値4500ポイント台まで一挙に20%以上、上昇した。その後、振れ幅の大きな展開を続けているものの、5月22日現在、4600ポイント代の推移となっている。
景気鈍化の中での株価急上昇。
中国政府の金融緩和策に対する期待が株価急騰の主な要因になっており、買うから上がる、上がるから買うというバブル形成のサイクルができている
一方、実体経済に目を転じると、従来、成長のエンジン役だった輸出も伸び悩み傾向が鮮明化している。企業業績の伸びもそれほど期待できる状況ではない。株価が急角度で上昇するだけの材料は見当たらない。
ただ、欧米の大手投資家の中には、成長鈍化を予想して中国株の持ち高を引き下げたものの、予想外に同国株が上昇したことから、慌てて買い増しに動いたところもあるようだ。
期待先行で急上昇した株価に企業業績が追い付ければよいが、それができないと、結果的には株価は大きく調整する可能性が高い。株式バブルが弾けると、中国経済の先行きは一段とリスクが高まる。チャイナリスクは着実に大きく高まっている。
最近の中国の経済指標を見ると、実体経済に強烈なブレーキがかかっている。今年1~3月期のGDPはプラス7.0%と発表されたものの、その数字を鵜呑みにしている専門家はないかもしれない。
実際には、その数字以上に減速しているとの見方の方が有力だろう。中国政府要人の発言を見ると、景気の下振れにはかなりの切迫感がある。今年4月の輸出は、前年同月対比でマイナス6.4%と大きく落ち込んだ。
不動産価格の下落傾向が鮮明化する状況下、経済全体に過剰供給能力を抱えた中国経済の回復への道はかなり厳しい。政府は輸出を拡大するため、AIIB(アジア・インフラ投資銀行)の設立等によって新興国向けのインフラ輸出を目指さざるを得ない状況に追い込まれている。
肝心の企業業績の伸びに目もくれずに、「この株を買えば儲かりそうだ」との意識で、多くの投資家が株式を買っている
そうした投資家心理は、1980年台中盤のわが国の株式市場の情景に似ている。資金が余り、その資金が大挙して株式と不動産市場に流れ込み、「買うから上がる。上がるから買う」というサイクルができ上がった。
その渦中にいると、多くの投資家は冷静に判断することは難しく、流れに遅れまいと相場の流れを追いかけることだけに集中してしまう。だからこそバブルができるのだが、足元の中国株式市場の様相はそれに近い状況だろう。
急上昇する中国株式の動向に、一時、多くの海外投資家が乗り遅れた。海外投資家の目から見ると、景気が減速し、経済全体に行き詰まり傾向が鮮明化する同国の株式を積極的に購入する行動はとりにくかった。
しかし、実際には株価が予想外に上昇した。国際株価指標と競争することを義務付けられた多くのファンドマネジャーは、上昇する中国株式の保有割合を引き上げざるを得ない状況になった。
彼らの中には短期間に、購入可能な中国株式に買いを入れた者もいるようだ。それも、株価の上昇を演出する要因の一つになった。
中国株の上昇のペースを見ると、そう遠くない将来、株価の下落が起きることは避けられないだろう。重要なポイントは、そのタイミングと世界経済に対する影響だ。
中国株式の調整が米国の金融政策の引き締め開始などと重なると、世界の金融市場に与える影響が増幅される可能性がある。米国と中国の株式市場が時を同じくして軟調な展開になると、世界の金融市場が大きく混乱することも考えられる。
ここまで、主要国は非常事態対応の金融緩和策によって景気の回復を図ってきた。その結果、世界中、世界中金余り状態になっている。有り余った資金の一部が、株式などの市場に流れ込み株価の上昇を演出してきた。
しかし、その“金余り相場”は中国に限らず、他の主要国でもそろそろピークに近づきつつある。株価が徐々に正常化すればよいのだが、時に金融市場は暴力的に間違いを正すことがある。そうした状況にならないことを祈りたい。"
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金融緩和して実体経済が立ち直ればいいのだけれども
そうではないようだ