今日はその事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ先づ出で来て紛れ暮し、待つ人は障りありて、頼めぬ人は来たり*。頼みたる方の事は違ひて、思ひ寄らぬ道ばかりは叶ひぬ*。煩はしかりつる事はことなくて、易かるべき事はいと心苦し*。日々に過ぎ行くさま、予て思ひつるには似ず。一年の中もかくの如し。一生の間もしかなり。  予てのあらまし、皆違ひ行くかと思ふに、おのづから、違はぬ事もあれば、いよいよ、物は定め難し。不定と心得ぬるのみ、実にて違はず*。 (徒然草 189段) ーーー  今日こそあの事をしようと思っていると、急

 今日はその事をなさんと思へど、あらぬ急ぎ先づ出で来て紛れ暮し、待つ人は障りありて、頼めぬ人は来たり*。頼みたる方の事は違ひて、思ひ寄らぬ道ばかりは叶ひぬ*。煩はしかりつる事はことなくて、易かるべき事はいと心苦し*。日々に過ぎ行くさま、予て思ひつるには似ず。一年の中もかくの如し。一生の間もしかなり。
 予てのあらまし、皆違ひ行くかと思ふに、おのづから、違はぬ事もあれば、いよいよ、物は定め難し。不定と心得ぬるのみ、実にて違はず*。
(徒然草 189段)
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 今日こそあの事をしようと思っていると、急に思いがけない用が出来て、それに心を奪われて一日が過ぎてしまう。待っていた人は用があって来られずに、予 期しない人が来たりする。あてにしていたことはうまく行かず、思いがけないことばかりが実現してしまう。面倒なことが簡単に行くかと思うと、簡単に行く はずだったことに苦労する。
 一日の出来事を後から振り返ってみると、はじめに思っていたのとは似ても似つかないものだ。一年についても同様であり、一生についてもそうである。
 では、何もかも予想通りに行かないかというと、まれに予想通りに行くこともあるので、ますます物事は決めてかかることができない。結局、この世の出来事 は何一つあてにできないと思うのが正解であって、間違いがないのである。