採録
「『なにがあったんだ』と大盛り上がりですよ」(ソシエテジェネラル証券の小原章弘ディレクター)。話題のもとは10日夕に日銀が公表したこの日の上場投資信託(ETF)の買い入れ状況だ。これまで株価が下がった日に買いに動くというのが通例だったが、株価が急落した10日に日銀は買い入れを見送ったのだ。
日銀は10月末に決めた追加金融緩和でETFの買い入れ額を年1兆円から3兆円に増やした。リスクプレミアムの圧縮を促す狙いとあって、株価が軟調な日に買い入れようとする判断が働いていた。実際11月以降、午前中に株価が下がっている日には370億~380億円程度のETFを買い、株価を下支えしてきた。
ところが10日は日経平均株価が一時500円を超す下げ幅となったにもかかわらず、買いが発動しなかった。これまで株安の日に買うことが多かったのはあくまで経験則であり、日銀が明らかにしたものではないが、今年屈指の株安だっただけに、市場から「はしごを外された」(国内証券)との不満が漏れるのも無理はない。
なぜこうしたことが起こったのか。カギとなるのは日銀が追加緩和時に示した「3兆8000億円」という今年末時点の保有残高見通しだ。これは日銀の最高意思決定機関である政策委員会の方針であり、日々の金融調節を担当する金融市場局はこの見通しの達成が最優先課題だ。目標に向け追加緩和以降も着実に残高を積み上げてきた。だが、買い入れ状況から計算すると9日までに残高は3兆7700億円程度にまで膨らみ、残高をほぼ達成したもようだ。金融市場局は先述の見通し達成が最優先だが、言い換えればそれを超えて買い進める権限はないというわけだ。
だが、ETFの買い入れはリスクプレミアムの圧縮が狙いのはず。株式市場では「こうした日こそ大胆に買い入れて市場心理を支えるべきだ」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長)との声が上がっている。残高目標に執着するなら毎日同額のETFを買い入れるべきだとの声も聞かれる。
市場には「株価が下がれば日銀が動く」という安心感があった。だが今回の買い入れ見送りで、「下支えがなくなったことで株価が大きく値下がりするリスクは高まった」(ソシエテジェネラルの小原氏)。