“公演中の或る日、楽屋で勝新太郎が、 「おい、お前……客っていうのはアレ、何を聞いてんのか分かるか?」 と唐突に尋ねてきたのだという。返答に詰まっていると勝新はこう言ったという。 「客はな、役者の台詞なんざ聞いちゃいねえんだ。アレはな、声を聞いてんだ――音を聞いてるのよ」 なるほどなあ、とその役者は感心したそうだが、又聞きした私も感心した。そういう持論があるから、勝新は舞台上で時折わざと聞き取りにくい小声で、囁くように台詞を言っていたという――意味はわからなくても、歌うようなその台詞回しに、観客は酔っ
“公演中の或る日、楽屋で勝新太郎が、「おい、お前……客っていうのはアレ、何を聞いてんのか分かるか?」 と唐突に尋ねてきたのだという。返答に詰まっていると勝新はこう言ったという。「客はな、役者の台詞なんざ聞いちゃいねえんだ。アレはな、声を聞い...