風邪薬のCMでは、色っぽい若妻が
「仕事、休めないんでしょ?」
「クスリを飲んで頑張って出勤してね」
「休めないんでしょ?」
と言っている若妻は、あれは、尻を叩いているのではない。
彼女は、お世辞を言っている。
「休めないんでしょ?」
と、夫の職業的自尊心に配慮
「仕事休んだら?」
と言った場合に、自分が軽んじられたように感じてしまう
彼らを出勤に駆り立てているのは、納期やスケジュールへの懸念や配慮ではなくて、むしろ「風邪ぐらいで休んでいたら忠誠心を疑われるぞ」といった感じ
「休めないんでしょ?」
と言っていたキミは正しい。もちろん休めない。っていうか、休んだらさいご、オレは二度と出勤できないかもしれない。なんとなれば、オレの勤労意欲の正体は原発の動作原理と同じで、ムラがらみの連鎖反応に過ぎないからだ。
「風邪? じゃあ、××飲んで休みましょうよ(はーと)」
みたいなCMを製作したらどうだろう。
思うに、それはそれで、問題になる。でもって
「バカにするな」
「仕事なめんな」
というタイプの苦情が、もっとたくさん集まることになる。
われわれが休まないのは休みたくないからではない。「この程度の風邪でオレが休むはずはないと、まわりのみんながそう考えてるはずだ」と考えるからだ。
本当はみんな休みたいし、休んでほしいと互いに思ってもいる。それに、風邪をひいたヤツが休んだ程度のことで、会社がどうなるわけでもないこともよくわかっている。それでもなお、われわれは、休んだら終わりだと考えないと仕事が続けられないのだ。
「甘い顔してたらアリの一穴で誰も出社してこなくなる」
「っていうか、休んだら席は無いと思え」
うん。わかっている。本当は、そんなはずはないのだ。でも休めない。
この国のビジネスパーソンのうちのある一群の人々は、「オレはこんなに無理をしてるんだぜ」というヒロイズムに依存しないと日々の労働を続行することができないほど追い込まれている
ある週刊誌に連載を持っている女子アナウンサーが書いていたところによれば、ああいう立場の人間が風邪をひくと
「職業意識が低い」
「風邪をひくのはアナウンサーとしての覚悟が足りない証拠」
「自己管理が甘い」
「プロとしての自覚が足りない」
というタイプのツイートやらメールやらハガキやらが山ほど届くのだという。
「オレなんかもう20年も風邪をひいていないぞ」
と、そういうことを声高に言うオヤジは、どんな職場にでも一人や二人は必ずいる。
彼に言わせれば
「自分のかかわっている組織なり会社なりに《負担》や《迷惑》をかけるのは、組織人として失格」
なのだ。