PTSDのときのフラッシュバックなどが典型だが
強烈な学習が成立し、その後、フラッシュバックが症状として固定しているならば、
その強い学習を消去すればいいはずだ
精神病体験も言葉では説明できないくらいの体験だろうから
その後にはPTSDの場合と同様の程度のフラッシュバックなどが起こってもおかしくない
患者個人の主観として、また患者家族の感想として、そのときのPTSDの結果、症状は始まったのだと認知されるとしても、
最初の症状は実は精神病症状であって、
幸いな事にそれは消えたとしても、PTSDの形で残存しているならば、
難治性で患者を苦しめることになるだろう
かなりの量の抗精神病薬を使っても幻聴が消えない場合などは
それは元々の精神症状ではなく、フラッシュバックではないかと疑って見ることが必要だと
中井久夫、神田橋などが書いている
なぜそのような、たとえば一生に一度限りのような強い学習が起こってしまうか分からないが
常識的に言って、ひとつは体験の強烈さが関係しているだろう
また学習してしまう側の問題として、女性ホルモンの濃度などが問題ではないかと思う
一生に一度限りの学習が起こる、例えば、母親を学習するという場合、生まれてすぐだから、
赤ん坊としてはその後もしばらくあるはずのない程度の女性ホルモン濃度であるはずだろう
だとすれば、学習を消去するには、退行操作などよりも、
女性ホルモン濃度を上昇させて、いわば「学習の閉じたリング」をいったん開いて、
そこで学習消去操作をしたらいいだろうと思う
妊娠している女性の場合にはひとつのチャンスではないかと思う
またこれは甲状腺ホルモンでも当てはまるかもしれない
その他に成長ホルモンと何かとのバランスかもしれない
いま話題のオキシトシンなども検討に値するだろう
PTSDとして成立している症状に対しては抗精神病薬は効かず、
量を増やせば、ただぼんやりして眠くなるだけなのだろう
患者さんの中にはECTやマグネティックで一週間程度のスッキリした状態があったと述懐する人がいる
ECTの一大効果は「記憶の消去」であるから、そう考えれば、理屈に合っている
しかし現状では、治療として、ECTを反復する勇気はないと思う
PTSDに対処する生体防御として、自然な忘却がある
その辛い体験の周辺の記憶まで巻き込んで、忘却する
あるいは解離を起こす
これは病的な隔離の仕方であるが、主体と辛い記憶を分離するには役立つ
ーー
大抵の場合、不眠が、症状増悪因子である
不眠が続きレム睡眠が抑制されると、
それだけでハミルトンのうつスコアが悪くなる
逆に言えば、睡眠をしっかりとることは生体防御反応なのだろう
それが仮眠になったとしても、不眠よりはむしろ、望ましいのではないか
人生のあれこれは不自由になるとしても、フラッシュバックからは解放されるかもしれない
ーー
こうしたことが家族関係を巻き込んで性格の病理につながるものかどうか、考えているが、よく分からない
説明のつかないトラウマであり、フラッシュバックにたいして無力であるのは家族も患者と同様だろう
そのような心理的配置を考えれば、性格の病理として凝集する可能性もあるのではないかと思う
ーー
いずれにしても、臨床の現場では、いったん「閉じた記憶」を「開いた記憶」に戻して、
それを操作できるのなら、やればいいだろう
退行、ホルモン、催眠術などが考えられるが、個人的にはいずれも、倫理的に難しいと感じている
「開いた記憶」にして消去できない限りは、再度その記憶そのもの、また周辺部分に触れることは
また新たなフラッシュバックを呼び起こすだけだろう
記憶が曖昧というのはよくあることで、
だからこそ、辛さを忘れていられるのだろう
病歴聴取にこだわるのは、不必要な復習をさせて、学習内容をさらに定着させるだけではないだろうか
(とはいうものの、患者は刻々と記憶改変作業を行なっているのであるから、今現在の記憶が
どのようなものであるかを把握しておくことは、たいへん意義深いとも思う。
再度傷つけることなく、しかも、現在の地点からの記憶を、記述出来れば大変良いのだが、難しそうだ)
それよりは、生体の反応として、辛い学習を「隔離」しているのだから、
それはそれで良いと考えたらどうだろう
あとは、残った機能を組み合わせて、患者さんの人生を再構築すればよいのではないか
すべての機能の再建を目指すのではなく
今とりあえず残っているもので再建すればそれで充分ではないか
生き残っているだけでありがたいのだ