足柄の彼面此面に刺す罠のかなる間しづみ児ろ吾紐解く

足柄の彼面此面に刺す罠のかなる間しづみ児ろ吾紐解く

相模国の歌
あしがらの をてもこのもに さすわなの かなるましづみ ころあれ ひもとく
足柄山のあちこちにかけてある罠は
獲物がかかると鳴子がなるようなしかけになっている
息をひそめてじっと待つ間
恋人と私は着物の紐をといて愛しあう
ーーー
もともとは万葉仮名で書いてあるもので
このような当てはめが正しいものかどうか分からないが
こうして出来上がった情景は
なかなかいいと思う
獲物が罠にかかるまでの間
静かにじっとしていればいいのに
ふたりは紐を解く
民謡みたいなものだったのだろうか
ーーー
伊藤博『萬葉集釈注 一』によれば、
「  足柄山のあちら側にもこちら側にも張り渡してある罠に獲物が引っかかって
   鳴り響く、その間の静まるのを待って、かわいい子と私とは紐を解く。
の意と覚しい。『かなるましづみ』は『か鳴る間静み』(鹿持雅澄『萬葉集古義』)の意
と考えられる。大方の解は、第四句をそう見ながらも、その「かなるま」までを「しづ
み」の序とし、『……罠の音のように人の騒ぎが静まって(家の者が寝静まって)から、
あの子と私とは紐を解く』の意と見ている。こういう解も可能であろう。だが、『かなる
ま』と『しづみ』とが一句の中で緊密に結び合い、上四句の叙述の重いことを考えると、
本来、狩猟の収穫を祝う野外の宴などで唱われた即興の歌と見、先に記したような意と解
する方が自然ではあるまいか。野合の男女はいかなる音にも神経を払うのが古今の常。本
日の狩の素材や実態をとりこんで、男女のそういう心情を述べてはしゃいだのがこの一首
だったのではなかろうか」。

とあるがどうだろうか。

息をひそめてじっと獲物を待たなければいけないときに
その緊張が
行為を誘発するような気がする