日本生殖医学会が9月に、「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存ガイドライン(案)」を公表し、独身女性の卵子凍結への関心が高まった(『卵子の凍結保存、指針案を公開』を参照)。この11月にも指針を発表する方針。未受精卵子および卵巣組織の凍結保存を推進すべきと考えるか、限定的にとどまると考えるか。
推進 不妊解決に有用
未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結保存には、「医学的適応」と「社会的適応」がある。日本生殖医学会の指針案では分けて提示している。医学的な適応は、悪性腫瘍をはじめとした医学的な介入によって性腺機能の低下が想定される場合に、あらかじめ卵子や卵巣を取り出して保存するものだ。さらに、最近注目されているのが、社会的な適応である。加齢による性腺機能の低下を見越して、あらかじめ卵子や卵巣を保存するもの。いずれの適応においても患者同意の下で、性腺機能の低下の影響を避ける方法として実施が広がろうとしている。本来、通常の生殖でも受精、着床、妊娠、出産の可能性はあるだけに、意見の分かれるところ。
社会的な適応は、年齢を重ねてからの不妊治療の成功率を高める意義が想定されている。生殖医療に関わる医師の間では、不妊外来に受診する患者のうち、妊娠の成功率が高いのは36歳前後という見方がある。一方で、不妊外来を受診者のうち最も多いのは39歳前後。年齢とともに精巣機能が低下するならば、低下前の段階で保存し、保存しない場合よりも受精、着床、妊娠、出産の確率を高めようというものだ。日本生殖医学会の指針案によると、未受精卵子や卵巣組織の保存は40歳まで、その使用は45歳までと記述している。未受精卵子や卵巣組織を保存することそのものが、女性の妊娠を促すと報告する論文もある(Fertil Steril. 2013 Aug 13. )。
限定 受精、着床、妊娠、出産の確率低い
社会的な適応については、せっかく凍結卵子を用いても、受精、着床、妊娠、出産に至る確率は低いという見方はある。海外のメタ分析の結果によると、凍結卵子を使った体外授精は、非凍結卵子を使う場合よりも成功率が低かった(Fertil Steril. 2013 Aug 13. )。性腺機能の低下が明確に予測できる医学的適応とは異なり、社会的な適応の場合には有用とは見られないと考えることもできる。
医学的な研究が十分になされない点を指摘する報告もある(Fertil Steril. 2008 Mar;89(3):523-8.)。受精、着床、妊娠、出産に至るための方法として可能性はありながらも、積極的に実施するにはデータが不十分。結果として、あくまで限定的な医療と考える医師がいても不思議はない。