戦闘体験に関連したPTSDの家族性危険因子
A Familial Risk Factor for Combat-Related PTSD
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する退役軍人とその双生児では行動干渉課題遂行時に背側前部帯状回の活性化が増大する。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する患者では、前頭前野の一部である背側前部帯状回皮質(dorsal anterior cingulate cortex;dACC)の機能異常が明らかにされている。この領域は一般に、非情動刺激による干渉、作業モニタリング、反応の選択、エラー検出、意志決定などの課題遂行時に活性化される。PTSD患者では、行動干渉課題の遂行時にdACCの反応性が増強することが多くの研究で報告されている。本研究では、これらの脳機能異常がPTSDにより後天的に生じたものなのか、あるいはPTSD発症の家族性危険因子を表しているのかについて、戦闘体験の暴露が異なる一卵性双生児を対象に検討が行われた。
参加者は、PTSDを発症した戦闘体験があるベトナム退役軍人12例と戦闘体験のない双生児12例、および戦闘体験がありPTSDのないベトナム退役軍人14例と戦闘体験のない双生児14例からなり、行動干渉コンピュータ課題を遂行した。各群とも反応時間にほとんど差がなかった。しかし、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による検討では、PTSDを有する退役軍人とその双生児では、PTSDを有さない退役軍人とその双生児に比べ、課題遂行時のdACC活性が高かった。PTSD患者とその双生児におけるdACCの活性化は、戦闘体験のある双生児のPTSDスコアと正の相関を示したが、うつ病(うつ状態)やアルコール使用の重症度とは相関しなかった。
コメント
PTSDを有する戦闘体験者とその双生児における行動干渉課題中のdACC活性の増強は、家族性危険因子の存在を反映している可能性がある。著者らの推察によると、dACCの活性は、初期反応選択に対する認知的干渉の増大、課題遂行時における自律神経系興奮の増強と調節、PTSDの特徴である強い恐怖反応に伴う全般的な過剰反応、あるいはこれらの複合を示唆しているという。この活性化パターンがどのような機序でPTSDの脆弱性に関連しているかは、いまだ明らかとなっていない。最終的に、dACCの過剰反応プロセスに対する薬理学的・認知的アプローチは、PTSDに罹患している患者や発症リスクの高い人に治療効果をもたらす可能性がある。