微弱な精神症状は症候群ではない
Attenuated Psychotic Symptoms Are Not a Syndrome
一般集団においてこれらの症状を経験する人は多いかもしれないが、なんらかの精神疾患に進展する人はごくわずかである。
最近報告された研究が示唆するところによると(JW Psychiatry Apr 13 2012)、微弱な精神症状(attenuated psychotic symptom:APS)を有する患者に対して臨床医はきめ細かな経過観察を行い、精神病の発症予防に努める必要がある。しかし、一般集団の1/3もの人がAPSを経験する可能性がある。本論文の著者Werbeloffらは、ある疫学研究に参加したイスラエル人4,914例(試験開始時[ベースライン]の平均年齢 29歳)において自己報告に基づくAPS(軽度の妄想、幻覚、奇異な思考、何かに取り憑かれているあるいは崩壊していく感覚)とその後の精神科入院の関連を検討した。入院の有無は同国の全国データベース(精神科入院症例登録)を用いて確認された(平均追跡期間 24年間)。
試験開始時、被験者の57%はまれにあるいはときどき経験するAPSを1種類以上有し、14%はしばしばまたは頻繁に経験するAPSを1種類以上有していた。APSスコアの平均は全般的な心理的苦悩・苦痛のレベルと相関していた。人口統計学的特性で補正後、APSスコア高値は感情障害を伴わない精神病(補正オッズ比[AOR] 4.3)および統合失調症(AOR 5.4)による入院のリスク上昇と関連していた。APSスコア高値に関連して他の精神疾患による入院のリスクも上昇した(AOR 2.2)。しかしながら、追跡期間に精神科入院にいたった被験者は、APSをまれにあるいはときどき経験する被験者の0.51%、APSをしばしばまたは頻繁に経験する被験者の1.27%のみであった。精神病による入院の多くは追跡開始後5年以内に発生し、精神病以外の精神疾患による入院は主に追跡開始5~15年後に発生していた。
コメント
APSスコアが高い一部の人は精神病を発症するかもしれないが入院にはいたらず、APSは、とくに社会生活機能の不良あるいは不安障害を伴う場合、その後の精神科入院の予測因子となる。しかし、最終的に明らかな精神病を発症する人がわずかであるため、この「高リスク症候群」の分類を臨床の現場で非選択集団に適用して精神病発症を予測することはできない。まさにこれこそが、DSM-5において見込み診断(prospective diagnosis)としてこの分類が削除された理由である。本研究の追跡期間は適切であるが、この症候群が臨床的に重要とみなされるようになるには、APSを有するどの患者が実際に発症するのかについてさらに情報が必要である。