うつ病を伴う妊婦の母性的応答性を増大させる方法
How to Enhance Maternal Responsiveness in Pregnant Women with Depression
今回報告された小規模のパイロット研究は認知行動療法が有用であることを示唆している。
妊娠中の女性には乳児の苦痛に対する感受性および応答性の亢進がみられる。妊娠中のうつ病は出産後12ヵ月までの母性的応答性を低減させ、児の転帰に悪影響を与える可能性がある。本論文の著者Pearsonらは本パイロット研究において、妊娠中のうつ病に対する認知行動療法(CBT)による母性的な気遣いのレベルの改善効果を検討した。参加した24例の女性は妊娠8~18週目でICD-10診断基準により単極性うつ病と診断されていた。
無作為化前の妊婦は、乳児の苦痛を示す顔表情と苦痛を示していない顔表情を用いた注意バイアス課題において、うつ病のない妊婦51例(対照群)に比べ、苦痛表情への母性的気遣い(注意)が低い傾向にあった。注意バイアスの評価後、うつ病を有する妊婦はCBTと通常治療の併用群もしくは通常治療単独群に無作為に割り付けられた。CBTは被験者の自宅で個別セッションを週1回、合計9~12回実施し、セッションは行動活性化(behavioral activation)ならびに母性や対人関係の問題に関する特定の認知に重点を置いた内容で構成された。通常治療の内容は助産師および一般医による周産期ケアを基本とし、必要に応じて精神科医療サービスへ紹介された。
通常治療単独群と比較し、CBT併用群ではうつ病スコアがきわめて低下していた。注意バイアス課題を再度受けた女性17例の解析では、CBT併用群には通常治療単独群と有意な改善が認められた。通常治療単独群は乳児の苦痛を示す顔表情に対する反応性が悪化し、CTB併用群ではうつ病のない対照群と同等なレベルにまで反応性が改善した。うつ病患者全体において、うつ病スコアの低下は乳児の苦痛に対する母性的気遣い(注意)の改善と強く関連していた。
コメント
今回の小規模なパイロット研究が示したのは予備的な検討結果にすぎず、米国の保健医療システムにおいて自宅での心理療法セッションを提供するのは非現実的である。しかしながら、妊娠に関連した問題を解決するように調整されたCBTによるうつ病治療は、乳児の苦痛に対する母親の反応性を増大させ、その結果として、母子の絆および児の転帰を改善するための方法として有望と思われる。