第7章 自己愛性パーソナリティ障害(NPD)
ポイント
・自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は自分は「特別」だと思っていて、あなたの賞賛を必要としている。
・彼らは誇大的で成功の幻想に囚われている。
・特権的だと思っているので、他人を平気で利用したり、共感に欠ける。
・傲慢と羨望がNPDには大量に同居している。
ナルキッソスは池を見つめ、自分を賛美し、落ちて溺れた。
—–ギリシャ神話
自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は自分にうっとりしていて、他人にも同じようにうっとりするように期待する。他人がそうしないと、世界が自分に無関心であることに、NPD患者は怒り傲慢に振る舞う。彼らは完全な美、理想的な愛、成功、そうしたものの幻想に引きこもる。
もし誰かが病気で助けが必要な場合、NPD患者は彼らを無視して、困難に共感しない。NPDは慢性状態で治療困難で悪名高い。
この病気は他人よりもNPD患者自身に自己愛性の傷付きをもたらし、生涯苦しめる。たとえば、中年になること、または全般に歳を取ることは、NPD患者にとっては傷付きであり苦痛である。外見を失い、仕事を失い、家族を失う。多くの場合他人を羨んでいる。
キーポイント
NPD患者にあなたは普通の人ですと説得しても無駄である
NPD患者は誰にも共感しないので、誰かがNPD患者と共感することは難しい。
しかし最善を尽くして見よう。たとえばあなたは完全に盲目で、その上、他の誰も存在していないとイメージしてみよう。そうしたらNPD患者に共感できるかもしれない。
NPDについては例えばこんな話を聞くだろう。患者はバスに乗って座っている。周囲のことを全く忘れて携帯電話でおしゃべりをしている。妊婦と年老いた身体障害者がそばに立っている。患者が席を譲ることは決してないだろう。共感が足りないと説教しても無駄である。聞くはずがない。
また彼らは治療を継続しない。治療を続けなさいと言うよりは、自分を向上させるエクササイズだと思って自分の外側を見てみることを、優しく思い出させよう。
彼らはいつも自分を向上させたいと思っているから。
ときには医師は自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害との区別が難しいと思うだろう。どちらも自分には怒る特権があると信じている。しかしNPDが怒っているのは他人が自分の素晴らしさを賞賛しないからである。BPDが怒っているのは自分の欲求が満たされず自分が苦しめられていると感じた時である。
症例スケッチ
グローリアは独身で魅力的な32歳の女性。身体の手入れが特別によいことを自慢にしている。特に彼女の歯は映画女優のように白く、完全にまっすぐに並んでいる。子供の頃はいくつも虫歯があり、矯正歯科に通い、歯を何本か抜いている。思春期以降になって彼女は強迫的に歯の衛生に注意し始めた。外見を面に良くするために最新のファッションを身につけ、髪をブロンドに染めた。前歯にわずかな痛みを感じた時、歯医者に行ったところ、虫歯がひどくて抜歯する必要があると言われた。グローリアは信じられなかった。歯は抜かれて、グローリアは次々に後遺症に苦しんだ。歯ぐきから出血したり、口がヒリヒリしたり、痛んだりした。感情的な不愉快さが身体的問題よりも大きかった。グローリアは失った歯について考えるのを止められなかった。舌でいつもすき間を触っていた。毎朝鏡を見て精密に検査するたびに叫んだ。夜になるとふさぎこんでいつもの活動ができなかった。食欲はなくなり、眠れなくなった。グローリアの歯医者がインプラントを提案した時、彼女はためらい、次々に歯医者を訪れてどうしたら良いか聞いた。ある日、彼女は急いでいて転んで額を傷つけ5針縫った。グローリアは自分の外見に我慢できなかった。前歯が欠けて顔には傷がある。あんまりだった。数日は家から出なかった。いとこが彼女を精神科医に相談させた。強迫傾向のある大うつ病と診断された。
ディスカッション
グローリアは抗うつ薬を使用して強迫傾向とうつ病は改善した。彼女のNPDは簡単には良くならなかった。彼女は精神科医との治療に同意した。精神科医は彼女の一番長い間の対人関係から短い対人関係まで調べあげて、グローリアの社交関係の2つの重要な側面を指摘した。
第一に、彼女は親密な関係を怖がり、友人とあまり親密に付き合わなかった。親の話や子供の頃の話になると話題を変えていた。両親が彼女を肉体的にも心理的にも虐待していたのを知られるのが怖かった。彼女は自分のトラウマを隠していた。
第二に、彼女は傲慢で横柄で、他人には他人の考え方があると言われると怒った。あるボーイフレンドと6ヶ月続いたが、彼を犠牲にして自分のしたいことをしたがったので、喧嘩ばかりしていた。グローリアは友人ともっと親しくなるように励まされた。また他人の視点を楽しもうとトライした。しかしどちらも彼女には難しかった。
キーポイント
NPD患者は不安性障害やうつ病の治療を求めてクリニックを訪れる。
薬剤や認知行動療法で不安やうつが治ると患者のNPDが現れる。その時点であなたは治療を続けるように働きかける必要がある。誇大的な幻想を捨てるとか特別配慮の欲求を減らすとか期待してはいけない。
あなたの共感は彼らを驚かすし喜ばせる。彼らは誰も居ない世界で盲人だったのだと思いだそう。それだけで治療同盟を維持するに充分である。
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以下のうち5つ以上あてはまると、自己愛性人格障害が疑われます。
- 自分は特別重要な人間だと思っている。
- 限りない成功、権力、才能、美しさにとらわれていて何でもできる気になっている。
- 自分が特別であり、独特であり、一部の地位の高い人たちにしか理解されないものだと信じている。
- 過剰な賞賛を要求する。
- 特権意識を持っている。自分は当然優遇されるものだと信じている。
- 自分の目的を達成するために相手を不当に利用する。
- 他人の気持ちや欲求を理解しようとせず、気づこうともしない。
- 他人に嫉妬をする。逆に他人が自分をねたんでいると思い込んでいる。
- 尊大で傲慢な態度、行動をとる。