第5章 境界性パーソナリティ障害(BPD)

第5章 境界性パーソナリティ障害(BPD)
ポイント・境界性パーソナリティ障害(BPD)患者はあなたを含め、誰とでももめ事を起こす。不適切な怒りが理由である。・彼らは人を理想化したり反対に無価値化したりする。そして一般に関係を悪くする。・バランスの悪い自己の感覚があり、空虚さ、見捨てられる不安、ストレス誘発性の解離を抱えている。・衝動性が特徴で、自殺の危険がある。イライラ、物質乱用、乱費が見られる。
これらの患者は神経症と精神病の境界領域に存在するはずである。—–Otto Kernberg,M.D.
過去には、精神科医は境界性パーソナリティ障害(BPD)を「as-if」人格と呼んだり、「通院」シゾフレニーと考えたりした。彼らは自分自身や他人を、そして特に治療者を非難虐待攻撃するので、もっとも治療困難な患者である。彼らを理解する鍵は、他者を理想化したり無価値化したりする考え方の中にある。かれらはあなたのことを決して悪を行わない『天使』だと考える。この理想化の局面では、あなたは肯定的な性質だけを持つ。しかし次の瞬間、無価値化されて、否定的性質ばかりを持つ『悪魔』になる。境界性パーソナリティ障害患者は中間の見方をしない。我々はこの防衛機制を「スプリッティング」と呼んでいる。他人に対する見方が歪んでいるので彼らはしばしば怒り、イライラし、不安になる。
彼らの気分は非常に反応性に富むので、パラノイアから発揚状態に数分から数時間で変化する。そのことが彼らに関わる人々を困惑させる。
衝動性が境界性パーソナリティ障害のもう一つの標識である。彼らは突然手首を切る。処方薬を大量服用する。あるいは銃弾で自殺すると脅す。彼らは容易に何かの薬物乱用になる。
BPDと関わる最善の方法は、固い限界を設定して、それを守ることである。時間、場所、料金できる限り固く取り決める。もし午前10時半と約束したらそのとおりにする。面接の場所を変えない。つまり、できるだけ同じクリニックで会う。常に自分の逆転移感情をモニターする。逆転移感情はすべての患者についてモニターしておく必要があるが、BPDの場合はとくに必要である。もしあなたが怒りを感じているなら、患者があなたを見て思い出している誰かに注目しよう。しかし解釈には注意が必要である。このパーソナリィ障害の患者はほとんど解釈に我慢出来ない。特に否定的な解釈には我慢出来ない。
キーポイント—–BPD患者は多分良くならないだろうということを覚悟しよう。他の場合は、一所懸命やれば少しは良くなるかもしれない。しかしBPD患者では期待してはいけない。患者に機能低下が起こらなければ、あなたはよくやっている。
症例スケッチ
パウラは32歳の医学研修生。人々がどんなに速く変わってしまうかに常に驚いている。ある瞬間、彼女はある教授を賞賛している。次の瞬間、彼を軽蔑している。彼女は自分の感じ方には問題がないと思っている。教授がそれほど速く変わってしまうのだと彼女は思っている。。彼女が研修している病院で、看護職員の半分がパウラをベスト研修生だと評価し、あとの半分の看護職員は彼女をひどく嫌っていた。パウラは年をとってから医学校で学んでいたので、働いて学費を払っていた。どんな仕事をしても彼女は同僚とものすごい喧嘩をした。また結婚生活でかなり喧嘩をしたので二人は結局離婚した。パウラは孤独でみんなに見捨てられた感じがした。そのことが彼女を見境のない、性病予防もしないセックスに駆り立てた。セックスに対して何かにとりつかれたような欲求を感じた。パートナーにコンドームをお願いすべきだと分かっているのに、彼女はそれをしなかった。その代わりに彼女はHIVテストを受け続けた。ある夜、心臓発作患者のケアにあたり彼女は恐怖を感じた。患者は6時間後に集中治療室で死亡した。ナースも主任レジデントもパウラが素晴らしい仕事をしたと認めた。しかし彼女は自分を非難することを止められなかった。オン・コールルームに一人でいたとき、バスルームに駆け込んでメスで手首を切った。血が滴り落ちるのを見て、彼女はほっとした。バスルームを綺麗にして、傷口は縛って止血した。そのあとむちゃ食いしてチョコチップクッキーの大袋を食べ尽くした。
ディスカッション
パウラはおそらくDSMIV-TRのBPDの基準を満たす。彼女は不安定な自己イメージを抱え、あるときは非常に有能であると感じ、次の瞬間には無価値であると感じている。同様に、BPD患者は過剰に理想化するか、過剰に無価値と考えるか、いずれかであって、パウラは教授や仕事の同僚にたいしてそのように感じた。彼女の対人関係は強烈でアンバランスである。一人でいるとき彼女は空虚で退屈で見捨てられた感じがした。彼女の不適切な怒りは彼女自身に向けられ、手首を切った。彼女の衝動性は見境のないセックスとむちゃ食いに向けられた。パウラは病院のスタッフの「スプリッティング」を引き起こした。BPD患者は「完全によい all good」か「完全に悪い all bad」かで他人を見ると、理論家は提案している。BPD患者は子供の頃の「良い母親 good mother」イメージと「悪い母親 bad mother」イメージを心理的に統合できないでいるのである。それというのも親が虐待したからである、というのが理論の大筋である。「スプリッティング」メカニズムは自我が退行したレベルで用いられる。退行状態では、悪いイメージとは程遠い良いイメージを抱くことができて、その二つを統合することができない。
キーポイントBPD患者はしばしば自分は特権的だと感じている。
BPD患者はあなたにもまた誰にでも、特別な好意を期待して要求する。その好意が得られなければ、彼らは怒りを浴びせる。これらの患者は精神療法が必要である。そしてうつ病や精神病のエピソードがある場合には薬物療法が必要なことがしばしばある。彼らの不安をベンゾジアゼピン系抗不安薬で治療することは勧められない。BPD患者は薬物依存しやすいからである。多くの医師は気分安定剤を使う。
ーーーーー次の9つのうち5つ以上があてはまると境界性人格障害が疑われます。見捨てられる不安が強いために愛情をつなぎとめるために必死に努力をする。他人への評価が理想化したり、こき下ろしたりといった両極端で不安定なものである。 同一性が混乱していて、自己像がはっきりしない。衝動的で、ケンカ、過食、リストカット、衝動買い、アルコール、薬物、衝動的な性行為などが見られる。自殺行為、自傷行為などをやろうとしたり、脅したりする。感情が不安定。いつも虚無感を覚える。場に合わない激しい怒りをもち、コントロールできない。そのため、暴力に走ったりする。ストレスがあると妄想的な考えや解離症状が出ることがある。

2013-03-27 19:47