新規のダニ媒介性感染症「SFTS」で国内初の死亡例

 厚生労働省は1月30日、ダニが媒介する感染症である「重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:SFTS)」が国内で初めて確認されたと発表した。患者は山口県に住む成人女性で、昨年秋に死亡した。
 SFTSは、ウイルスを保有するフタトゲチマダニ(写真1)、オウシマダニなどマダニ類の咬傷を受けることで感染、発症するウイルス性感染症。感染者の血液や体液による接触感染も報告されている。潜伏期間は6~14日ほどで、症状は発熱、倦怠感、消化器症状など。検査所見としては血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少、血清電解質異常(低Na血症、低Ca血症)などを認める。有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法が主体となる。
写真1●SFTSウイルスを媒介するフタトゲチマダニ(提供:国立感染症研究所) 体長3~4mmだが、吸血すると10mmにもなる。
 今回報告された患者は、昨年秋に発熱、嘔吐、下痢(黒色便)を訴え入院。血小板数が8.9万/mm3、白血球数が400/mm3と低下していたほか、AST、ALT、LDH、CKの高値、血液凝固系の異常、フェリチンの著明な上昇などを認め、全身状態が悪化して死亡した。患者に明らかなダニ咬傷は認められなかったが、血液からSFTSウイルスが同定されたことなどからSFTSと診断された。
写真2●SFTSウイルス(提供:国立感染症研究所) ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される1本鎖RNAウイルス。2011年に特定された。
 SFTSは2009年に中国中央部(湖北省と河南省の山岳地域)で初めて存在が明らかになり、11年に原因であるSFTSウイルス(写真2)が特定された。中国ではこれまでに7省で患者が確認されている。今回、日本で確認されたSFTSウイルスは、中国で確認されたウイルスとは遺伝子の塩基配列が一部異なっており、以前から日本に存在していたとみられる。患者には海外渡航歴がないことから、「SFTSウイルスを保有するダニが国内に存在し、国内で感染したと考えられる」(厚生労働省健康局結核感染症課)という。
 わが国で初めて報告されたSFTSについて、日本紅斑熱を発見しダニ媒介性感染症に詳しい馬原医院(徳島県阿南市)院長の馬原文彦氏は、「ダニ類に刺咬された後に発熱などを訴える患者では、日本紅斑熱をはじめとするリケッチア症やアナプラズマ病に加え、SFTSも鑑別に挙げる必要があるだろう。血小板減少はこれらの疾患に共通する検査所見なので、こうした患者を診た場合には血液検査を行ってほしい」と話す。
 厚労省は同日、国内で発生したSFTSの情報提供と協力依頼に関する課長通知を発出。38℃以上の発熱と消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血のいずれか)を呈し、血液検査所見で血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少(4000/mm3未満)および血清酵素(AST、ALT、LDHのいずれも)の上昇が見られ、集中治療を必要とした患者、または死亡者(病因が明らかな場合を除く)を診察した場合には情報提供するよう依頼した。
 なお確定診断に必要なウイルス学的検査は、保健所や地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所ウイルス第一部に依頼できる。