企業福祉モデル

採録

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現在のわが国の経済社会システムは戦後に形作られた「ケインズ型企業福祉モデル」としての性格をなお基本的に残している。そこで、このモデルの特徴を整理しておくと、以下で順にみていくように、企業、家族、政府の3つのサブシステムから構成されていた。

 まず、3つのサブシステムのうち中核を占めるのは企業システムであり、その最大の特徴は、企業が富の生産=経済成長の役割を担うのみならず、欧米では政府が行っている富の分配=所得分配機能まで果たしてきたこと――その意味で「企業福祉モデル」というべき性格を有していたことである。
 この企業システムの根幹に位置づけられてきたのが、終身雇用・年功賃金を両輪とする日本型雇用慣行である。「終身雇用」は従業員のモラール向上や技能形成を通じて、日本企業の国際競争力を高める一方、強い雇用保障が個人の生活保障の要になってきた。加えて、生活保障給的な性格が強い「年功賃金」が所得分配機能を有していた。横並び平等的な給与水準の決定により、正社員全員に妻子の養育費が賄えるだけの所得水準を保障してきたからである。とりわけ、扶養手当を支払う場合は、正に政府が行うべき機能を企業が果たしてきたといえよう。
 家族システムは、「夫片働き型」モデルを標準形として、企業システムを裏から支える役割を果たしてきた。日本的雇用慣行を根幹にした企業システムが80年代頃まで高いパフォーマンスを示したのは、日本経済がまだキャッチアップ過程にあったことが基本的背景であるが、その陰では主に女性がパート労働者のみならず女子事務職のような短期勤務正社員として、安価で柔軟な労働力を企業に提供していたことを見落とせない。
 不況時には妻や娘が雇い止めや採用抑制のバッファーとなることで、正社員としての夫や父の雇用安定や高賃金が維持されるという裏腹の関係があった。それを背後で支えていたのは、「夫は仕事・妻は家事」という夫片働き型の家族モデルが、文字通りの「標準世帯」であったという状況である。つまり、「企業福祉モデル」という一見企業にとって高価なモデルは、夫片働きモデルという安価な家族モデルと表裏一体で成立していたことが重要なポイントである。
 政府も「ケインズ型企業福祉モデル」のサブシステムとして重要な役回りを演じた。具体的には、市場原理への介入というケインズ主義の考え方に立脚し、①企業の正社員雇用の維持を支える前提としての業界秩序を守るための「公的規制」や「行政指導」、②不況時における景気浮揚・雇用確保のために「公共事業」の追加を行った。
 一方、所得分配機能については消極的な役割しか果たしてこなかった。企業と家族が国民の生活保障的な役割の多くを担っていたためで、「ケインズ型企業福祉モデル」における公的社会保障制度は、母子家庭や当時はまだ割合の低かった要介護高齢者など「社会的弱者」に対する「残余的な福祉」の性格を色濃く有していた。
解体を迫られる「ケインズ型企業福祉モデル」
 以上みてきた3つのサブシステムからなる「ケインズ型企業福祉モデル」が上手く機能したのは、①経済がキャッチアップ過程にあること、②夫片働きモデルが一般的であること、③高齢者比率が低いこと、が前提条件であった。しかし、周知のように、こうした条件は90年代を経て大きく変わる。そうしたなかで、「ケインズ型企業福祉モデル」は、とりわけ企業にとっての不都合な面が目立ってきた。
 日本経済のキャッチアップ過程が終了したことに加え、安価で良質な労働力を多く抱える新興国の台頭、製造プロセスにおけるモジュール化(予め一定の接続ルールで作られた複雑な機能を持つ部品を組み合わせることで、高度な製品を製造すること)の普及によって、企業が競争力ある事業構造を構築するには、長期雇用で人材を内部育成するだけでは間に合わず、外部のスキル人材を調達する一方、人員削減を伴う不採算部門の整理も避けられなくなっている。
 高学歴化や女性の社会進出の浸透で、企業はかつてのように女性正社員を安価で柔軟な労働力としては活用できなくなっている。高齢者の増加は労使折半の社会保険料負担を増やし、企業収益の無視できない圧迫要因になっている。
 こうしたなかで企業がとった対応策は、正社員を減らして企業福祉モデルの負担を避けようとしたことである。その結果が、高コストの日本型雇用慣行の埒外である非正規労働者の急増であり、とりわけ若い世代でのその割合の増加と失業率の高まりであった。
 全年齢でみた非正規雇用比率は1990年には20%程度であったものが、90年代にハイペースで高まり、2000年には26%に達した。とりわけ15~24歳の若年層の非正規雇用比率はこの間、20.5%から40.5%に高まり、失業率も4.3%から9.2%に高まった。ここで指摘しておくべきは、いわゆる格差問題は2001年に始まる小泉改革が原因だとする声があるが、それ以前から問題は発生していたことである。
 一方、「ケインズ型企業福祉モデル」における政府の役割にも問題が生じてきた。業界秩序を守るための「公的規制」や「行政指導」は、キャッチアップ過程が終わり、経済成長のために不連続的なイノベーションが必要になった状況では、むしろ弊害が目立ってきた。
 平成バブル崩壊後の不況局面で、累次の公共事業積み増しを中心とした経済対策が講じられたが、経済再生にはつながらず、国家債務の急激な増加をもたらすだけに終わった。女性の社会進出の一般化は待機児童問題を深刻化させ、高齢者の絶対数の急速な増加は、要介護高齢者の増加を必然的にもたらし、「残余的な福祉」の考えに基づく措置制度の限界を露呈させた(その対応策として、2000年に介護保険制度が創設された)。
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私なりに言うと
家族内助けあいと
企業内助けあいと
国家助けあいの
対比になる

国家による助けあいは母集団が大きいぶん、負担は少ないようなものだけれども、
出す側も受け取る側も顔が見えないという問題がある

家族内助けあいだと
誰がどのような苦労をして養ってくれているのかわかるようになり
そこに人情も義理も発生する
しかしそれが人間の原初の姿なので
血縁共同体の助けあいは強力だと思うし合理的だ

会社内助けあいは
DNAの基盤を持たないので
血縁助けあいに比較すると人工的で
しかもある程度人の顔が見えるのでなかなか大変な人間関係になる

終身雇用と年功序列はそれなりによい所も悪いところもあるが
採用時と途中とで制度が変わると個人としては耐え難い場合がある
約束が違うだろうという声が出る