世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。 あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔りぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書き止めぬれば、やがて定まりぬ。道々の者の上手のいみじき事など、かたくななる人の、その道知らぬは、そぞろに、神の如くに言へども、道知れる人は、さらに、信も起さず。音に聞くと見る時とは、何事も変るものなり。 かつあらはるるをも顧みず、口に任せて言ひ散らすは、やがて、浮きたることと聞ゆ。また、我もまことしからずは思ひながら、人の言ひしままに、鼻
世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり。 あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔りぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書き止めぬれば、やがて定まりぬ。道々の者の上手のいみじき事など、かたくななる人の...