欧州で洋上風力発電が急成長している。欧州風力エネルギー協会(EWEA)の集計では、2011年末までの累積総出力は、約400万キロワットに達した。新規に稼働したのは、2010年に約90万キロワット、2012年に約100万キロワットと、発電出力でみると毎年、原発1基分の設備が海の上に出現していることになる。累積容量の約半分が英国、次いでデンマークが約20%。洋上風力のメッカとなった英国には、大手風力タービンメーカーの独シーメンス、デンマーク・ヴェスタス、スペイン・ガメサなどが相次いで工場を建設している。英国は、今後さらに3200万キロワットの導入計画を発表しており、それが投資を呼び込んでいる。
産業の裾野広い洋上風力発電
英国以外の主要国も洋上風力の大規模な導入計画を続々と発表し始めた。2020年までの計画を見ると、ドイツが900万キロワット、フランスとオランダが各600万キロワット、スペインが300万キロワット、ベルギーが280万キロワットなど、北海沿岸を中心に3000万キロワットが計画されている。また、米国でもすでに500万キロワットの計画申請があり、米エネルギー省(DOE)は2020年までに1000万キロワットの設置を予想している。実は、中国ではすでに10万キロワットの洋上風力が稼働しており、2020年までに3000万キロワットの導入目標を掲げている。
陸上の風力発電設備の製造に必要な部品点数は、約2万点と言われる。これは、ガソリン自動車の約3万点、電気自動車(EV)の約1万点に匹敵する。洋上になれば、さらに部品点数は増える。各国政府が洋上風力に力を入れるのは、風力や太陽光発電の陸上での立地に限界が見え始めたなか、残された再生可能エネルギーのフロンティアとしての期待とともに、部品や素材など、裾野に幅広い産業を生み出すことを期待している。
日本は、こうした世界の動きから一人、取り残されていた。だが、ここにきて、一気に先頭に踊り出る可能性が出てきた。
福島県の沖合約20キロメートルの太平洋上に、2013年以降、巨大な風力発電設備が次々とお目見えする。東日本大震災で事故のあった東京電力福島第一原子力発電所からも30キロメートルほどの距離になる。まず、2013年に2000キロワット、2014年に7000キロワット、2015年には数千キロワットクラスの風車を順次、設置する計画だ。総事業費は188億円。東日本大震災復興関連の2011年度第3次補正予算で開始が決まった「浮体洋上ウインドファーム実証研究事業」だ。
世界最大の洋上風力発電を福島県沖に
「浮体洋上ウインドファーム」とは、海の上に多数の巨大な風力発電設備を浮かせて発電し、海底ケーブルで陸上に電力を送る大規模風力発電所だ。海上に設置する洋上風力発電では、英国とデンマークで設置が始まっているが、いずれも海底に基礎を据える「着床式」。欧州で着床式が普及しているのは、水深20メートル前後の遠浅の海域が広いため。コスト的に着床式で設置可能なのは、水深40メートルまでといわれ、それより深い場合は、船や浮きのような構造物の上に風車を載せる「浮体式」の方がコスト的に有利とされる。
ただ、浮体式は、数年前からイタリアやノルウエー、ポルトガルで1000~2300キロワット機の実証実験が始まったところで、まだ研究段階だ。福島沖20キロメートルの水深は、100メートル前後にもなるため、計画立案の当初から着床式という選択肢はなく、浮体式に挑戦することになった。
福島沖の実証事業は、7000キロワットという世界最大の風力発電設備を次世代技術である浮体式で設置する世界初の試みになる。羽根(ブレード)の回転で描く円の直径は165メートルに達し、定格出力が出れば、数千世帯の電気を賄える。成功すれば、洋上風力の先端技術の実証で、日本が欧州を抜き、一気に世界をリードすることになる。加えて、経済性を確保できれば、この海域に大規模なウインドファーム(大規模風力発電所)を事業化する構想もある。
福島沖の実証事業を統括するのは、海外の発電事業で豊富な実績のある丸紅。そして、メーカーには、大型風力と造船の両技術を持つ三菱重工業のほか、日立製作所、新日本製鉄、アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド、古河電気工業、三井造船、清水建設など、日本の重工業や素材産業を代表する企業が名を連ねる。まさにオールジャパン体制だ。
実は、丸紅と三菱重工は、すでに欧州の洋上風力発電事業に積極的に参画している。
丸紅は昨年11月、日本企業として初めて英国沖の洋上風力発電事業に出資した。今年3月には英国の洋上風力発電設備据付会社、シージャックス社を買収した。丸紅の山本毅嗣・海外電力プロジェクト第一部新規事業チーム長は、「洋上風力設備の設置でボトルネックになっているのは、洋上で設備を据え付ける特殊船が少ないこと。シージャックス社は特殊船を複数所有し、海上での据え付け技術が高い」と話す。同社は、「今後、欧州で蓄積したノウハウを、洋上風力の導入が見込まれる北米や日本、アジアで生かし、洋上風力事業を世界的に展開する」(山本チーム長)計画だ。福島沖の実証事業はその第一歩になる。
洋上ならではの大型設備に日本の技術を結集
三菱重工業は、英電力会社の協力を得て、洋上向け7000キロワットの大型風力発電設備を開発中で、英国沖洋上風力発電事業への設備納入を目指している。風力発電はブレード(羽根)を長くして出力を増やすほど、1キロワット当たりの発電コストが安くなる。陸上風力ではブレード運搬の都合から、2000キロワットが限界だが、船で運べる洋上ではさらなる大型化が可能になる。シーメンスやヴェスタス、アルストムなど風力発電設備大手は、6000~7000キロワットの洋上向け大型風力発電設備の開発を急いでいる。
ただ、ここまで大きくなるとブレードの回転を速めて発電機に伝えるギア(増速機)の耐久性に課題が出てくる。永久磁石同期発電機を使うとギアは不要になるが、磁石にレアアースを多用するためコストが上がる。三菱重工はブレードの回転力を油圧で発電機に伝える油圧式洋上風車の商品化を目指している。油圧式ならギアは不要で、通常の誘導発電機が使えるのでコストが下がり、将来的には1万キロワットの大型風車も可能になる。この技術は、英ベンチャーのアルテミス社が開発し、特許を持っていた。
三菱重工は2010年12月に同ベンチャーを約20億円で買収し、独自技術として手に入れた。今年8月にはこの油圧伝達技術を導入した2400キロワット機を横浜の自社工場内に稼働させ、来年には70000キロワット機を英国の海岸辺に着床式で設置、実証運転する計画だ。そして、いよいよ2014年にはその成果も踏まえ、福島沖に浮体式の7000キロワット機を設置する。
油圧式風車になると、部品点数はさらに増える。風車の回転を油圧に変える仕組みはこうだ。風車回転軸の円周上に波型の凹凸が付いており、その周りに1個20キログラム程度の油圧ポンプユニットが配してある。風車が回ると、軸の凹凸部分も回転し、凸になると、ポンプのピストンが押され、油の圧力を上げる。円周上に並んだ100個以上のポンプが連続的にこうした動きを繰り返すことで、油圧が上る。発電機を回すモーター側では、これと逆の原理で油圧を回転運動に変換する。精緻なメカニカルのため、設計・製造の過程で、サプライヤーとの綿密な“刷り合わせ”が必要だ。日本のものづくりの得意分野だ。
もともと経済産業省は、まず今年から千葉県銚子沖で着床式2400キロワット機を実証し、5年後ぐらい先に浮体式の実証事業を想定していた。環境省は来年から長崎県五島市沖に2000キロワット機を浮体式で設置する実証事業を進めているが、商品として競争力のある6000~7000キロワット機を設置する計画はなかった。震災の復興予算によって、浮体式7000キロワット機での洋上風力の実証が数年早まることになった。三菱重工と丸紅が、欧州企業を買収し、積極的に洋上風力のノウハウを蓄積していたことが、この前倒しを可能にした。
波と塩分が敵、カギを握る素材技術
ただ、三菱重工の大型風力発電機の技術と丸紅の洋上風力の施行・運営に関する経験だけでは、浮体洋上ウインドファームは、完成しない。カギを握るのは、素材技術だ。
浮体洋上風力は、常に塩分を大量に含んだ潮風にさらされる上、繰り返し波に揺られて、躯体全体に応力がかかる。高い耐腐食性と、金属疲労を十分に考慮した素材や躯体設計が求められる。新日本製鉄は、福島沖のプロジェクトを機に、洋上風力発電用の高張力鋼板(ハイテン)を開発して浮体部に採用し、実証する計画だ。
ハイテン鋼は軽量で強度が高いため、低燃費車への採用が進んでいる。洋上風力の浮体も軽くて強い材料が求められる。自動車産業とともに培ってきた技術が応用できるわけだ。また、波に洗われ最も腐食が懸念される部位には、表面を防食処理できるステンレス薄板材料を採用する。
浮体風力は、海に浮かんでいるとはいえ、風や海流で流されないように海底地盤と係留チェーンでつながっている。海中用のチェーンとしては、船舶用チェーンがある。だが、浮体風力用は、船舶用よりも使用条件が厳しいため、さらに高い耐久性が必要になる。新日鉄は、グループ企業などと共同開発する計画だ。
風力で発電した電力を陸に送るケーブルも、浮かんでいる風車と海底との間でつながっている。一般的な海底ケーブルと異なり、海流を受けつつ、浮遊する風力設備に引っ張られて海中を漂う。古河電気工業は、こうした厳しい環境下でも耐えるケーブルを開発する計画で、福島沖で実証することにしている。
日本の自動車産業が強いのは、ハイテン鋼に代表される高度な素材技術、そして数万点に及ぶ部品の設計と製造をサプライヤーとともに綿密に打ち合わせつつ、高い精度で組み上げていく“刷り合わせ”にあると言われる。浮体風力には、この両方の技術、ノウハウが必要とされる。洋上風力に取り残された日本だが、福島沖のプロジェクトを機に一発大逆転できる可能性も大きい。
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難しい問題がいっぱいありそうだけれども、総合力が生きる分野でもあると思う
羽根(ブレード)の回転で描く円の直径は165メートル
7000キロワット
というのは具体的な感覚として想像しにくいけれどもすばらしいものだ
空中に常に浮遊していて偏西風を受けたり台風を受けたりして激しく回転する
なんていうようになるともっと素晴らしい
また、雲に遮られる前に太陽光を電力に変換してしまえばいい
地球の自転エネルギーとか公転エネルギーを使うこともできるのかもしれない
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なんて言いつつ、データをCDROMに焼いたりしていたのだが
考えてみれば素晴らしい技術がここ数十年の間に一般の我々にも使用可能な程度になっている
こんなにもすごい技術を持つ人間が
何を目指して、どんな夢をいだいて、生きているの?