採録
受診される患者様の特徴を教えてください。
当施設は,完全ではありませんが予約制を取っています。予約制にしてからうつ病の患者さんの割合が増えています。また,社会全体の傾向ですが,内因性のうつ病というよりも,うつ状態の患者さんが増えているような気がします。
うつ状態になる患者さんにはさまざまなパターンがあり,うつ病でなっている方や性格的な問題・環境的な問題などでなっている方がいます。性格的な問題でのうつ状態は若年の患者さんに多く,比較的,ストレスに弱い面を持っている方がなりやすい傾向にあります。そういった方のうつ状態はうつ病の患者さんと比べると軽い傾向にあります。そういった意味では軽いうつ状態の患者さんが増えており,近年における精神科の敷居が低くなったこともあいまみえ,当施設でも軽症のうつ状態の患者さんが増加しています。
当施設は特定機能病院であるため,基本的には紹介された患者さんを受け付けております。精神科での紹介率はほぼ100%で,地域の信頼は得られていると考えています。うつ病の患者さんは食欲不振などの身体的問題を伴うことが多いので,まず内科を受診される方が多くみられます。そういった方は内科を受診されても身体的異常が見つからず,精神的な問題ではないかということで紹介されてきます。このようなケースに関してはいつでも紹介していただいて結構です。
うつ病の薬物治療において,重要と思われる点は何でしょうか。
最も重要であることは,患者さんのうつ状態がうつ病からきているのか,それとも性格的・環境的な問題からきているのかをきちんと診断することであり,そこでうつ病と診断されれば,抗うつ薬を十分量まで使用することです。
私は,うつ病に対する第一選択はSSRIと考えています。通常のうつ病の患者さんでは脳内のセロトニンが枯渇しているため,SSRIによりセロトニンを増強すれば効果がみられます。性格的・環境的なものでうつ状態になっている場合では,脳内のセロトニン量が正常な可能性もあります。そういった患者さんにSSRIを処方しても効果はみられない可能性があります。うつ病の患者さんの場合は,1か月くらい投与して改善がみられ始め,3~4か月で多くのケースが治癒します。うつ病と診断した患者さんには,「うつ病というと聞こえは悪いかもしれませんが,薬が効いて治る可能性が高いです」と説明し,患者さんに安心していただくことが大切です。
また,SSRIは従来の抗うつ薬と比較して重篤な副作用が少なく,十分量を投与しやすい薬剤です。ただ,発売当時は十分量を使用されないケースが多かったため,フルボキサミンは効果が弱い薬剤と評価されてしまうこともありました。SSRIは十分量を投与すれば従来の抗うつ薬と同等の作用を示します。
先生がお考えになるフルボキサミンの特徴は何でしょうか。
先ほども述べましたが,安全性が高いため,150mgまで増量しても副作用が出にくいということです。ただし,すべてのSSRIに言えることですが,服用初期に吐き気がみられることがあります。そのため,まず1日50mg投与から始めて,徐々に増量する方法を取っています。その方法であれば,ほぼ吐き気の発現を防ぐことができます。患者さんに対しても,十分量と考えられる150mgまで増量することで効果がみられること,徐々に増やしていけば副作用も少ないことを説明しておきます。
1日150mg投与する際には,1日2回で朝と夕,25mg錠と50mg錠を1錠ずつ組み合わせて処方していましたが,75mg錠が発売されてから朝夕1錠ずつの処方で済むようになりました。フルボキサミンは十分量服用することで効果がみられる薬剤であると私は考えているため,75mg錠により患者さんの服薬の負担を軽減でき,コンプライアンスを上げるために非常に意味があることだと思います。