パーソナリティ障害の認知療法

目次●
 
 プロローグ 「標準的」認知療法
第I部 総  論
 第1章理論
 第2章臨床
 第3章鑑別治療学
第II部 各  論
 第4章 情緒不安定性パーソナリティ障害で認知行動療法が有効であった一症例
 第5章 「認知療法は苦手です」と標準的認知行動療法に躊躇を示した情緒不安定性パーソナリティ障害患者の入院心理療法―患者の認知行動スタイルとニーズに合わせた認知行動療法の活用
 第6章 認知療法中止例に学ぶ情緒不安定性パーソナリティ障害における精神療法的介入の工夫
 第7章 演技性パーソナリティ障害への弁証法的行動療法
 第8章 神経性無食欲症を合併した強迫性パーソナリティ障害に対する認知行動療法
 第9章 不登校からひきこもりを呈した青年期事例における不安性(回避性)パーソナリティ障害への介入
 第10章 不安性(回避性)パーソナリティ障害の認知療法―自責と拒絶の怖れを訴える女性への,認知的概念化と介入
 第11章 不安性(回避性)パーソナリティ障害を伴った重症対人恐怖症に対する認知療法
 第12章 セックス・セラピーを求めてきた夫が不安性(回避性)パーソナリティ障害の一症例
 第13章 パニック障害をともなった依存性パーソナリティ障害に対する認知行動療法的介入
 
 エピローグ 認知療法の新しい地平
 あとがき
 索  引

 あとがきより抜粋● 本書では,原則として,世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD-10)に依拠したパーソナリティ障害の下位分類を用いた。日常診療でICD-10による臨床診断が求められるからである。特定のパーソナリティ障害(F60)には,妄想性パーソナリティ障害(F60.0)から依存性パーソナリティ障害(F60.7)までが区別される。認知療法は,Beckらの著書にあるように,どのパーソナリティ障害にも適用可能である。しかし,本書には情緒不安定性パーソナリティ障害(F60.3)以降を取り上げた。
 各論の最初を飾るのは情緒不安定性パーソナリティ障害である。第4章は外来での治療の粋が提示され,第5章は入院を含む継続的な関わりが論じられる。第7章には演技性パーソナリティ障害(F60.4)が登場する。ここではマインドフルネスがキーワードである。第8章は強迫性パーソナリティ障害(F60.5)で,摂食障害を伴っている。そして,第9章から第12章までの4ケースは,不安性(回避性)パーソナリティ障害(F60.6)である。不登校・ひきこもり,リストカット,対人恐怖,セックス・レスといった病歴がみられる。最後は第13章のパニック障害を伴う依存性パーソナリティ障害で締め括られる。鑑別治療学にいう治療の場・治療の形態も一様ではない。いずれも日常臨床で出合いうるケースばかりである。
 興味深いのは第6章の情緒不安定性パーソナリティ障害である。総じて,新しい治療を提示するとき,成功例が並ぶのは当然かもしれない。しかし,『臨床の実際』という場合,多くの,大小さまざまな失敗を経験することは不可避であろう。エビデンスが強調される昨今の趨勢を鑑みると,認知療法中止例から学ぶことはむしろ大きいかもしれない。
 本書を手にされた専門職の方々が,パーソナリティ障害に関わる新しい視点を得て,これを温め,そして日々の臨床活動に活用されることを切に願っている。