“幼児期から診させてもらっている小学4年生の自閉症スペクトラムの女児Aちゃん。学校では時々トッピな行動をして周囲をハラハラさせることがあるが,基本は真面目でルールを厳格に守るタイプ。厳格すぎて周囲から浮いてしまうこともある。落ち着きはないが,勉強好きであまり問題行動もなかった。教師も上手に支援しているようであった。
あるとき担任教師から,暑いと授業中でもTシャツを脱ごうとする,何度注意してもわかってくれない,何か良い方法はないかと相談を受けクラスで面談した。
「どうしてTシャツ脱いじゃうの?」
「暑いからです」
「でもそれは恥ずかしいよね」
「どうしてですか?」
「だってもう4年生だから女の子が上半身裸になったら恥ずかしいよね」
「男の子は良いんですか?」
「まあ,男の子も授業中に上半身裸になったらいけないよね」
「じゃあ,なんで女の子だからって言うんですか?」
「そっか,ごめん,男の子も女の子も脱ぐと恥ずかしいから,やめようね」
「恥ずかしくないです。男の子も恥ずかしくないし。女の子も恥ずかしがる子と恥ずかしがらない子がいると思います。私は恥ずかしくないタイプです」
「そっか,そうだね。エーと,なんて言うのかな……」
「先生,困っているみたいですね……(しばし沈黙)。あっ,もしかしたら恥ずかしいのは先生ですか?」
「えっ……あ,そうだね。恥ずかしがっているのはAさんじゃなくて先生かも」
「そうなんだ,私が脱ごうとすると担任のB先生も恥ずかしそうでした」
「そうだね」
「だったら,わかりました」
「?」
「先生たちが恥ずかしいんだったら,暑くても脱ぐの我慢します」
「そっか,ありがとう」
「最初から,そう言ってくれれば良かったのに……」
特に解説不要だろう。自閉症スペクトラムの子どもや成人と話していると,自分たちの偏見や不合理性に気付かされることが多く,答えに窮することも少なくない。素直に説明すればわかってくれることも,大人の勝手な思い込みで無理に納得させようとすると失敗する。成人でも子どもでも,「○○だから,こうしなさい」とか,「○○が社会のルールだ」と教え込もうとするより,こちら側の気持ちを素直に伝えることで問題が解決することもある。Aちゃんは時々「へりくつをこねる」と教師や親から怒られていたが,「へりくつ」を言っているのは大人のほうかもしれない。”
— 医学書院/週刊医学界新聞(第3098号 2014年10月27日)