バルプロ酸は脳を萎縮させる可能性がある
Divalproex Might Shrink the Brain
バルプロ酸服用1年後のアルツハイマー病患者において脳の萎縮と認知機能の低下を認めた。
バルプロ酸は神経保護特性を有すると考えられており、本剤はてんかん、双極性障害、片頭痛などの神経精神疾患に処方されることが多く、問題行動にも適応外処方されている。本論文の著者Fleisherらは、アルツハイマー病(AD)に対するバルプロ酸の24ヵ月間の、多施設共同、プラセボ対照比較試験(JW Psychiatry Aug 29 2011)に登録された軽度~中等度AD患者の亜集団において、本剤が脳の容積および認知機能に及ぼす影響に注目した検討を行った。なお同研究では、バルプロ酸には興奮に対する予防効果がないとの結果であった。
試験開始時(ベースライン)および12ヵ月目に磁気共鳴画像法(MRI)により解析に十分な質の脳画像が89例の患者で得られた。12ヵ月目にバルプロ酸群では全脳、海馬の平均容積がプラセボ群に比べ有意に小さく、脳室拡大の頻度が有意に多かった。臨床的影響に関しては、副次的評価項目のMini-Mental State Examination(MMSE)スコアが6、12ヵ月目にプラセボ群よりも有意に低かった。また、MMSEスコアは海馬容積の年換算変化率と相関を示した。18、24ヵ月目にはMMSEスコアの群間差は消失した。
コメント
バルプロ酸を使用している臨床医にとって、確かにこれらは懸念される結果である。バルプロ酸がどのような機序で脳に悪影響を及ぼすのかは今のところわかっていないが、肝毒性、高アンモニア血症、浸透圧変化、あるいは神経毒性が関与している可能性がある。ほかにも、脳萎縮は可逆性なのかどうか、今回の結果はAD患者のみにいえることなのかそれとも双極性障害やてんかんを有する患者など他の集団でも生じるのかどうか、といった重要な疑問が残されている。また、本研究は、前臨床試験の結果を、ヒトを対象として妥当かどうかを検討することの重要性も明確に提示してくれている。脳萎縮は認知機能の低下(MMSEを指標に測定)と相関しているので、バルプロ酸服用により認知機能への悪影響が認められた患者に対し慎重な治療方針で臨みたい医師は、容易に他剤に切り替えるであろう。
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この種の「相関」というのはメカニズムを証明したわけではない。
可能性があることには配慮すべきである。しかし過剰に縛られる必要ない。