「坑内カナリア理論」カート・ヴォネガット・ジュニア
わたしはときおり芸術はなんの役に立つのかと疑問をもつことがあります.わたしに思いつけるいちばんましな答は、みずから『坑内カナリア理論』と名づけたものです.この理論にしたがえば、芸術家が社会にとって有用なのは、彼らがきわめて敏感であるためです.彼らは敏感すぎるほど敏感である.そのために、もっとも強壮なタイプの人間がまだなんの危険にも気づかない前から、彼らは有毒ガスの発生した炭坑の中のカナリアのように、目をまわしてぶっ倒れるのです.
ハヤカワSF文庫[SF172]カート・ヴォネガット・ジュニア「プレーヤー・ピアノ」"訳者あとがき"より