採録
堤未果氏(ジャーナリスト)が出演した2014年12月14日放送のNHKラジオ第1「ラジオあさいちばん」の一部書き起こしです。音声は下記URLで聞くことができます。
ラジオあさいちばん 著者に聞きたい本のツボ 12月14日(日)
「沈みゆく大国 アメリカ」堤未果・著 集英社刊
http://www.nhk.or.jp/r-asa/bo2014/1214book.asx
(書き起こしここから)
アナウンサー:堤さんはこれまで「貧困大国アメリカ」とタイトルの付いた作品を3冊上梓されています。この作品はこれに連なる内容ですが、今回も私たちのアメリカに対するイメージ、覆されました。
堤:はい。特にここ30年ぐらいでずいぶんアメリカは国の枠組みが変わってしまったのと、政治とそれから財界の距離が物凄く近くなったということで、色んなことが昔ともう違うんですね。ウォール街とか投資銀行・投資家、それから大企業。そういう人たちがもう、ちょっと力を持ち過ぎている。ですから、株価は上がっていてもやっぱり潤っているのは上位1%で、残りはもうどんどん転落しているという、今そういう状況になってます。
(中略)以下、4:15あたりから
アナウンサー:堤さんは、オバマケアはアメリカをパートタイム国家にしてしまったともお書きになってます。
堤:はい。オバマケアはですね、全米の全ての企業は従業員・社員に保険を提供しなさいと、これを義務化したんですね。これ最初はみんな、わーっと喜んだんです。やった、会社が保険を買ってくれると。
ところが、会社もそれはちょっとなということで、どういうことをしたかと言うと、フルタイムの社員には保険を提供しなさいという法律なので、みんなパートタイムにしたんです。
もしくは、罰金を払ってもいいから企業保険をうちは提供しませんと。罰金の方が安いです、というところもあったので、雇用者の数は増えたんですけど、蓋を開けてみるとパートタイムの人ばっかりなんです。で、みんな保険も持ってないということが起きてしまった。
(中略)以下、6:55あたりから
アナウンサー:そうするとやはり、国民皆保険制度であるはずのオバマケアは、日本の皆保険制度とはもうかなり違いますね。
堤:違いますね。これは非常に日本で誤解をされているんですが、まず国民皆保険制度の日本、これは社会保障なんですね。アメリカの場合は医療が商品なんです。なので、オバマケアは国民皆保険制度ではなくて民間皆保険制度。つまり、医療保険という特殊な商品を国民全員に、買わなきゃだめですよ買わなきゃ罰金ですよ、と義務化しただけなので、これは儲けを出すための商品なわけです。
一方で日本は社会保障なので、診療報酬制度で一本化されていて、儲けを出すための株式会社って入ってないですよね、間には。それがやっぱりもう180度違います。
アナウンサー:堤さんは、オバマケアは国家解体ゲームだというふうにお書きになってますね。
堤:はい。オバマケアは医療保険の話だと思いがちなんですけれども、先ほど言いましたけど、非常にこう株主至上主義になっていった。で、その中で教育も食も農業も自治体も、色んな物を商品にしていったんですね。その最新、最後のターゲットが命と。これ、命をマネーゲームの商品にしたと。そういう一連の流れがずっと続いているんですね。
グローバル化の中で商品を世界中の市場に売ろうとしたら、一番邪魔なものは国家なんです。国家・憲法、それから司法・議会制民主主義・人権。こういったものがどんどん邪魔になってくるので、やっぱり国家を1つ1つアメリカというのは解体してるなあという印象をすごく受けました。
アナウンサー:そして堤さんは、国民皆保険制度を持つ日本はアメリカにとってキラキラ輝く市場だと警鐘を鳴らしています。
(中略)以下、9:45あたりから
堤:それから、株式会社が病院を経営した場合、日本がまだ経営してるんだったら何か不祥事があった時に国会に証人喚問で呼べるんですけれども、外資が株主だった場合、国会に呼べない。そうすると、国民のために、何か被害が起きた時に国家がそれを守れなくなるというのが、私はとても心配です。
アナウンサー:堤さんは、この本の最後に「日本の皆保険は宝。制度を奪われないためには自国の制度を最低限知ること」という言葉を紹介されてますが。
堤:はい。健康保険証1枚で日本全国どこでも、ある一定水準の治療が安く受けられると。こんな国は世界でもあんまりないわけですね。で、なかなか日本の国民健康保険証を当たり前のように持ってるけども、実は素晴らしい制度だったんだと思った時に、日本人はきっと本気になって、じゃあどうやってこれを持続可能にしようか、じゃあどうしたらお医者さんが働き過ぎになんないか、どうしたら薬の出し過ぎっていうのを防げるか、もっと真剣に私たち当事者として考えると思うんですよね。それが今、日本で生まれたらいなと思っています。