採録
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マルクスの最大の誤りは階級を二つと考えたこと。
ドラッカーもそんなことをいっていた。中産階級が出てきた時点でマルクスの考えは破綻した、と。これから中産階級が没落し、再び階層が二極化していくと、ふたたびマルクスの出番があるのだろうか
二十世紀というのは、巨大なひとつの小説が世界を支配しそうにみえた時代。マルクス主義という小説。マルクス主義のそんなあり方に対して、思想的に文化人類学者がやったのは、無数に物語があるよということだった。
文化人類学のやったことは西欧も一つの地方文明であるとする方向。問題はマルクスの「大きな物語」をそれで否定しても、科学の普遍性は残ったことで、科学も西欧という地域の一地方文明、その地域でのものの見方にすぎないという方向(「サイエンス・ウォーズ」)は必ずしも承認されたとはいえないこと
私が寝ていようが、起きていようが、自然科学の法則は働いていると、近代人は思っているが、古代人が神を考えるときもそうだった。しかし神を信じることが人間の主体的選択であるということになったときから広い意味での近代文明が始まった。
将来がどうなるのかが、ちゃんとわかっている人が自由なのであるということが、マルクス主義を信ずればわかるという信仰で20世紀は本当に動いた。
合理主義的な歴史主義に対して、世界はもともと不条理なのだとするのが広い意味での実存主義。本質と人間の実在は別ということになる。
「大きな物語」の時代は終わったということが、そのまま「考える」ことの終わりになってしまったということがあるのかもしれない。知識人が「考える」と碌なことにはならないというのが20世紀の教訓であるのかもしれないから、それはいいことなのかもしれないし、21世紀は「思想」の時代ではなく「工学」の時代になるのかもしれない