【1月12日 AFP】イスラム武装勢力タリバン(Taliban)との戦いの最前線であるパキスタン北西部ペシャワル(Peshawar)の人々は、数え切れないほどの空爆や銃撃、誘拐に怯えながら暮らしてきた。そして今、彼らを脅かす新しい脅威が、大発生している巨大ネズミだ。ネズミはニワトリを食べ、人間に噛みつき、病気を蔓延させ、赤ん坊を殺してまでいる。
こうしたネズミの駆除にあたっているのが、ナシール・アーマドさんだ。農具のくわと一輪車、ゴム手袋を用意し、3人の娘たちの手を借りて、40代のアーマドさんは粘り強くネズミの根絶のために闘っている。彼によれば、過去18か月間で10万匹以上を殺したという。「友人の妻がネズミに噛まれて病院に駆け込んだ日から、この闘いは私の使命になった」とアーマドさんはAFPに語った。「彼女の治療費は5000ルピー(約5500円)もかかり、狂犬病を防ぐ注射も打たなければならなかった」
ネズミの体長は22~30センチにも及ぶ。「通りや市場、店の中など、そこらじゅうにいる」とアーマドさんはいう。彼によれば、ネズミたちは夜に攻撃を仕掛け、夜明け前には姿を消す。家や店の中にある布類を食いちぎり、食べ物を汚染し、女性や子供たちに噛みつく。
以前は、市内に生息しているネズミの数は限られていたが、近年、周辺の農村部でモンスーンによる洪水が相次ぎ、ネズミたちが市内に逃げ込んできた。市を通る下水溝の中に住みつき、夜になると出てきて、その大きな歯で悪さをしでかすのだ。
夜が更けると、アーマドさんは通りを一つずつ、家や店を一軒ずつ回りながら、狩りを始める。持って歩いているのは、砂糖と化学薬品をふりかけたパンくずだ。「ネズミたちは、昔から地元で使っていた毒に耐性をもってしまった。だから私は自分で独自の薬品を調合しているんだ」という。アーマドさんはその毒をかけたパンを街角や店の前など、ネズミが出てきそうな場所に置いていく。
夜明け、パンを食べて死んだネズミを、住民たちがシャベルやくわで片付ける姿が見えた。アーマドさんもくわで100匹ほどを集めて一輪車に乗せた。最後にはビニール袋に詰めて畑に埋める。
アーマドさんの仕事ぶりは熱心だし、住民たちの間でも人気だ。だが今のところ、この駆除作業は非公式なもので、行政から報酬が支払われるわけでもない。それでも決意は固い。「資金もないし、政府からの援助もないが、これは自分にとって使命以上の仕事だ」と彼はいう。