"米経済学者でノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・トービン氏は、国際通貨取引に低率の税を課して、巨額の利益を生む投機取引を規制する「トービン税」を提唱しました。1%の富裕層に課税して99%の庶民のために使うという発想から、英国の義賊の名前を取ってロビン・フッド税とも呼ばれ、欧州連合(EU)の一部加盟国が導入を検討しています。いま世界がすべきことは、格差が広がるからといって資本主義を否定することではありません。何もしなければ格差は広がるのだと自覚した上で、健全な資本主義を維持するために税制を適切に使っていくことなのです。
世界を見渡すと、一握りの富裕層に富が集中する傾向が強まっています。格差が広がりすぎると社会にひずみが生まれ、かつて英国でいわれたように民主主義を脅かす可能性があります。富の再配分だけが税の役割ではありませんが、税が社会を安定させるために使われるべきものなら、その機能はやはり重要です。
米国では巨額の財産を社会的に容認できないものとする考え方が根強く、第2次大戦後の英国では「金権民主主義はファシズムの台頭を防げなかった」という批判もあったようです。そうした観点から、いずれの国でも不労所得には働いて得た所得以上に重い税が課されていました。
所得税の最高税率が80%や90%だと、企業の経営者はむやみに自分の報酬を高くしようとはしません。大半を税として持っていかれてしまうからです。実際、ピケティ氏は所得税の最高税率と企業の役員報酬額に密接な関係があることを指摘しています。役員報酬が抑えられれば企業のもうけは従業員にも行き渡り、税による再配分と合わせて所得の格差は小さくなっていきます。"