うつ病および不安における男女差は説明がつくのか?
The Sex Difference in Depression and Anxiety Explained?
今回の動物実験は、脳由来神経栄養因子(BDNF)のある遺伝子変異が重要な役割を果たす可能性を示唆している。
不安の発現に脳由来神経栄養因子(BDNF)遺伝子のある一塩基多型(SNP)が関与しているとされている(JW Psychiatry Dec 11 2006)。66番目のアミノ酸をバリン(val)からメチオニン(met)に置換させるこのSNPは、BDNF分泌減少をもたらす。さらに、このSNPの保因者は白人集団の約30%を占め、エストロゲンのBDNF誘導能を減弱させる可能性がある。本論文の著者Bathらは今後、初経後の女性に不安やうつ病の頻度が比較的高いこと、そして生殖イベントに関連したうつ病の再発において、このSNPがなんらかの役割を果たしている可能性について検討した。ヒトのSNPをマウスに挿入したあと、著者らは不安様・抑うつ様行動のモデルを用いた数種類の行動試験を実施し、met/met型雌マウスと野生型(val/val型)雌マウスを生涯および生殖周期において比較した。
met/met型マウスはval/val型マウスに比べ行動試験において不安および抑うつ反応を示す頻度が高く、これらは先行研究の知見と一致する結果であった。しかしながら、met/met型マウスにおいて相対的に高い不安レベルが観察されたのは、思春期に相当する成長期以降のみであった。met/met型マウスは卵巣周期の低エストロゲン期(発情期)により強い不安を示した(val/val型マウスは示さなかった)。
コメント
これらの動物実験の結果はヒトに適用しうると思われる。BDNF低値は不安、抑うつ、その他の異常なストレス反応と関連しているが、このSNPをヘテロあるいはホモで保有する女性ではBDNF低値の影響に対するエストロゲンの減弱効果が弱いのかもしれない。その結果として、女性のmet型SNP保因者ではエストロゲン値の低下を伴う月経周期(および生殖周期における加齢変化)が引き金となってこれらの症候群における脆弱性が増大する可能性が考えられる。論説の著者らは、将来BDNF遺伝子型解析が導入されれば、産後や月経前あるいは閉経期に気分・不安障害になりやすい女性の特定が容易になるであろうと予想している。