“この間、京都精華大学の学長でマンガ家の竹宮恵子さんと対談したのですが、マンガが他のジャンルと比べてすごいところは、マンガ家たちが、著作権とかオリジナリティーとかいうことを基本的に言わないっていう点なんです。ストーリパターンとか、キャラクター設定とか、コマ割りとか、吹き出しの使い方とか、顔の描き方とか、そういうマンガを描く技術はすべて「パブリックドメイン」なんだそうです。
マンガの技術はみんなのものだ、と。先人から伝えられたものを後続世代が工夫して育てているジャンルなんだから、ひとりで囲い込まないで、使えるものはみんなで共有しよう。そうすればマンガのクオリティーがどんどん上がっていって、読者も増えるし、本の発行部数も増える。結果的にマンガ家全員が力量をつけることで業界全体が潤うんだ、と。
だから、お互いの技法をどんどん模倣するし、パロディやスピンオフ(二次創作)も基本的には許している。その結果、マンガは今世界中に広がって、英語やフランス語だけじゃなくて、中国語、ロシア語、アラビア語にまで訳されて、総発行部数が何億部というような作品が次々と生まれている。これは新しい技術の発明を個人の業績に還元して、「囲い込み」をしなかったことのみごとな成果だと思うんです。
これはマンガ制作と流通にかかわる全員が一個の「運命共同体」を形成して、集団として生き延びることを最優先に考えたからだと竹宮先生は説明してくれました。めざすものが個人の名声とか収入とかじゃない。音楽にしても文学にしても、そこにかかわっている人たちが個人的成功よりも自分たちの「運命共同体」のパフォーマンスを高めることを優先すれば、スケールの大きな、すばらしいものができあがる。自己利益を確保しようとするとジャンル全体が衰退する。そういうものなんです。ですから、平凡な結論なんですけれども、よい仕事をしようと思ったらみんなで力をあわせましょうってことなんです(笑)”
ソニーは囲い込みで失敗してしまった