<西東京虐待自殺>2度のSOS伝わらず…会話3時間後の死
毎日新聞 8月9日(土)7時30分配信
西東京市で中学2年の男子生徒(14)が母親の再婚相手である父親の虐待を受けて自殺した事件は、学校が2度にわたるSOSのサインを見逃し、最悪の事態を招いた。生徒は先月29日、傷害容疑で逮捕された無職、村山彰容疑者(41)から「24時間以内に首でもつって死んでくれ」と言われ、翌日に命を絶っていた。警視庁は自殺教唆の疑いでも調べる方針だが、追い詰められていた生徒を救う手立てはなかったのか。
◇兆し
市教委によると、生徒は明るい性格でテニス部に所属。同級生の母親は「(母の再婚で2歳の)弟ができたことを喜んでいた。家事を手伝ったりとお母さん思いだった」と振り返る。
最初のサインは昨年11月中旬。右目が腫れていることに担任教諭が気付いた。「父親にたたかれた」と話したため村山容疑者に事情を聴いたところ、暴力を認めた。しかし生徒が「父親のように強くなりたい」などと話したことから児童相談所に通報しなかった。
担任は今年の4月にも顔にあざを見つけたが、生徒は「父親に殴られたが、いつもじゃないので大丈夫」と答えたといい、学校は両親への聞き取りをしなかった。6月13日から「体調不良」などを理由に欠席するようになり、担任は家庭訪問を申し入れたが、村山容疑者は「親戚宅にいる」などと拒み、そのままになった。
◇自殺
自殺当日の7月30日午前6時ごろ。母親は、自宅アパートの自室ベッドの上でぼんやりしている生徒を見た。「大丈夫?」と声をかけると「大丈夫だよ」と返した生徒は約3時間後、同じ場所で首をつっているのが見つかった。遺書はなかった。
村山容疑者はこの日逮捕された。容疑は前日の29日午後、生徒の顔などを数回殴るなどしてけがをさせたというもので、「首でもつって死ね」との発言はこの暴行直後に出たとみられる。
村山容疑者はボクシング経験者で、調べに対し「子供を強くするため、以前からボクシンググローブをはめて殴っていた」などと供述したという。虐待は3~4年前に生徒の母親と同居した直後から始まったとみられ、母親は「今年6月中旬から激しくなった」と説明している。
◇防止策
元児童相談所長で花園大の津崎哲郎特任教授(児童福祉論)は「連れ子の場合、母親は夫に気兼ねして虐待を止められず子供が孤立しがち。地域で連れ子再婚家庭同士が意見交換したり、助言を受けたりするような態勢が必要」と話す。児童虐待防止を目指すNPO「Think Kids(シンクキッズ)」代表理事の後藤啓二弁護士も「暴力傾向の強い親には、児相や警察を巻き込んで頻繁に家庭訪問し子供の安全を守る必要がある」と訴える。【神保圭作、松本惇】
◇養・継父が実父上回る摘発数
警察庁によると、昨年1年間の児童虐待事件で「父親」が摘発されたのは371人。このうち、実父は180人▽今回逮捕された村山容疑者のような継父と養父の合計が118人▽母の内縁の男49人--だった。主な容疑罪名は傷害・傷害致死が164人(実父90人、養・継父49人)▽暴行70人(実父41人、養・継父18人)▽殺人11人(実父7人、養・継父3人)。強制わいせつと児童福祉法違反に限れば、摘発者数は養・継父が実父を上回っていた。
一方、「母親」が摘発されたのは111人で、約9割の101人が実母だった。傷害・傷害致死で47人、殺人で21人が摘発された。