“ひとり身の外国暮らしは、仕事はそれなりに忙しくても、雑用がほとんどないので、かなり暇がある。本を読むにはもってこいだが、いかんせん肝心の本が少ない。恒常的に本に飢えている。しかし、前任者やその他の日本人が置いていった本がどこかに溜まっているもので、そんな本溜りにアクセスできれば、最低限の読みしろは確保できる。欠点は、読みたい本がそこにあることは少ないということだが、逆に言えば、そこにたまたまある本を読まなければならないので、ふだんなら読まなかっただろうような本が読める。選択肢がないというのは、どうして、なかなかいいことである。選択肢が増えるのは進歩である。だが、人間進歩ばかりしていていいはずがない。
「読みたい本がある」とか「ない」とかでなく、「ある本を読む」。すがすがしい。そこにどんな本があるかは見てみるまでわからず、自分では何も決められないし、要求もできない。いいじゃないですか。人生そのものだ。たいがいは駄本である中に、余人には価値低くとも、あなたにとってはかけがえのない一冊があるかもしれない。あなたの人生を変える「一生の出会い」があるかもしれないのだ。ま、ふつうないんですがね。”
外国暮らしのこんな楽しみ