2014年5月23日、医療分野の研究開発に司令塔役を作るための健康医療戦略推進法と独立行政法人日本医療研究開発機構法が参議院本会議で成立した。
2つの法律に基づいて、医療研究の重点分野などを決める健康・医療戦略推進本部が近く内閣に設置されるとともに、2015年4月1日には研究費の配分などを手掛ける日本医療研究開発機構が立ち上がる。文部科学省と厚生労働省、経済産業省がばらばらに手掛けていた医療分野の研究開発予算が一元管理され、医療分野の研究成果の実用化や産業化が図られる見通しだ。
健康・医療戦略推進本部は、内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚が構成員を務める。同本部は、2013年8月2日の閣議決定を基に既に立ち上げられているが、法律を根拠に改めて設置されることになる。設置後は、同本部で副本部長を務める健康医療担当の内閣府特命担当大臣が指名される予定だ。
同本部は今後、研究成果の実用化や産業化を促進するための健康・医療戦略を策定。それを踏まえて、医療分野研究開発推進計画を作成する。同本部の事務局機能を果たすのは、内閣官房に置かれた健康・医療戦略室。健康・医療戦略室も既に設置されており、関係省庁から担当者が出向中だ。
日本医療研究開発機構は、厚労省所管の医薬基盤研究所、文科省所管の科学技術振興機構、経産省所管の新エネルギー・産業技術総合開発機構、各省庁から人材を集め、300人規模で来春発足予定。健康・医療戦略推進本部が作成した医療分野研究開発推進計画に基づき、医療分野の研究開発や研究環境の整備、助成などの実務を担う。
健康・医療戦略推進本部が仕切り、日本医療研究開発機構が一元的に執行するのは、2014年度で言えば1390億円分。内訳は文科省、厚労省、経産省の研究開発予算の総額1215億円と、内閣府の調整費175億円だ。医療分野の研究開発予算は2014年度分から集約化され、政府が示した基本方針に基づいて各省庁で執行されているが、2015年度以降は、健康・医療戦略推進本部が作成する計画に基づいて各省庁が予算を集約化し、日本医療研究開発機構を通じて執行されることになる。
ちなみに、国立がん研究センターや国立循環器病研究センターなどのナショナルセンター、理化学研究所、産業技術総合研究所、国立感染症研究所など、各省庁にぶら下がっている研究機関の研究開発予算である総額750億円は対象に含まれない。また、基礎研究のための科学研究費助成事業に充てられている総額650億円も対象外だ。
当初、この仕組みは 米国立衛生研究所(NIH)を模して「日本版NIH」と呼ばれていた。ただ、米国のNIHは長官の下に多くの研究機関がぶら下がっている構造で、外部の研究機関への研究開発予算の配分だけでなく、独自の研究も手掛けている。対して日本では、健康・医療戦略推進本部が方針を決め、日本医療研究開発機構が研究開発予算を配分する仕組みであり、研究機関など研究機能を持ち合わせていない。内閣府の担当者は、「今は『日本版NIH』とは呼ばれていない。略称などもないので、関係者は『新しい司令塔』などと言っている」と話す。