“阿部:場所というのは絶対に必要です。学振(日本学術振興会特別研究員)という月々お金がもらえる制度があるんですけど、それに当たると、いちから勉強しようと研究室にこなくなって家に籠る人がいます。でも、どんなに優秀な人でもけっこうな確率で行き詰まって、才能が枯渇していきます。東大の大学院生ですらそうなんです。やっぱり、小さい、地下の院生室というところに集まって話をしているとそこで初めて面白いものが生まれるんです。
これはネット空間でも可能なんですけど、人はそんなに強くなくて、ネットだと気の合う人としか話をしない。院生室に行けば、嫌な先輩とか自分とは専門の違う人もいるわけです。例えば僕は、バイク便ライダーの研究をしていて、メインの調査手法は質的調査、参与観察です。そうすると、ルーマンやフーコーといった社会学者の学説史研究をしている人たちとは学会では接する機会は少ない。でも、院生室に行けば、他にも数理モデルで社会を記述しようとするヤツがいたり、歴史に詳しいヤツがいたりと、とにかくダイバーシティがあるわけです。で、彼らとバイク便ライダーの調査について議論する。現実の「場」というのは、お前は来るなとは言えないので否応無しにダイバーシティは高まらざるを得ない。ダイバーシティがない議論はつまらなくなるし、異化作用のない芸術や文化がつまらないのは歴史が証明しています。そういった意味で「場」は必要だと思うし、院生にもなるべく大学には来いといっています。”