国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市)神経研究所の山村隆・免疫研究部長らの研究グループが、神経難病の視神経脊髄炎(NMO)の症状改善に、関節リウマチの治療薬「トシリズマブ」が有効であることを臨床研究で実証した、と発表した。
研究成果は、米神経学会誌「ニューロロジー」の電子版に掲載された。
山村部長らは、ステロイドや免疫抑制剤が効かず再発を繰り返していた7人のNMO患者に、月1回トシリズマブを投与する治療を1年間続けた。その結果、7人とも体の痛みや疲労が改善され、うち5人は再発を起こさなかった。
30代の女性は、背中や足腰の痛みのために100メートルほどしか歩けなかったが、トシリズマブの治療を始めて3か月後には、痛みがほとんどなくなり、1キロほど歩けるようになった。また、30代の男性は、両目に重度の視力障害があり、介添えなしでは歩くことができなかったが、治療後、視界が少し明るくなり、病院内で一人で歩くことができるようになった。
山村部長らは2011年、NMOの発症を関節リウマチの治療薬トシリズマブで抑制できる可能性があることを基礎研究で突き止めた。その効果を実証するため、トシリズマブの適応外使用について、同センターの倫理委員会の承認を得て、同年から臨床研究を始めた。
山村部長は「神経難病に対してこんなに治療がうまくいった経験は初めて。難病でも研究を続ければ解決できることを示すことができた。痛みで苦しんでいる患者のために、早期の新薬承認が望まれる」と話す。
この研究成果などをもとに、トシリズマブを関節リウマチの薬として販売している中外製薬は現在、NMO患者を適応症とした新薬承認に向け、最終段階の治験を計画している。
新薬は、トシリズマブなど従来の抗体製剤に比べ、投与間隔が長く、静脈ではなく皮下注射で投与できるうえ、効果も同等以上のものを目指している。治験は、世界で70人ほどのNMO患者を対象に、6月から行われる予定だ。