住民原告は「原状回復」を求める。
それに対して被告東電は
「除染は費用がかかりすぎ、一企業での実現は不可能」。福島第一原発の爆発でまき散らされた放射性物質の除染を地元住民が求めた訴訟で、東京電力はこう主張し、「できない」と開き直った。
かと言って、破産するのでもない、原発再稼働を目指している。
原発事故による福島県民の被ばく線量は多くが年間20ミリシーベルト以下であり、喫煙や肥満、野菜不足より発がんリスクは低いとし、「住民の法的権利が侵害されたと評価することは困難」だとも東電は主張する。
「故郷をぶっ壊しておいて、何を言うのか」と住民は言う。
しかし、そもそも、あなた方はお金を受け取って、原発立地を承認したではないかと東電は言う。
放射能汚染で休業に追い込まれた福島県二本松市のゴルフ場が2011年、東京地裁に除染の仮処分を求めた際、東電は「飛散した放射性物質はもはや東電の物ではない。誰の物でもない、所有者のいない『無主物』に当たり責任を持てない」と主張した。
結局、この時点で国の除染に対する政策が定まっていないとして、東京地裁はゴルフ場の訴えを退けた。「無主物」に対する司法の判断はなく、その後、東電が主張した話は聞かない。
太平洋に汚染水が漏れ出した問題では、事実関係を明らかにしたのは、東電が状況を把握した数週間後の2013年7月だった。東電は理由を説明していないが、発表した日は、参院選の投開票日の翌日だった。
11年9月、事故対応を検証する衆院特別委員会から、過酷事故(シビアアクシデント)時の対策手順書の提出を求められたが、「知的財産に当たる」などと拒否した。批判が高まり提出したものの、表紙や目次以外はほとんど黒塗りというあきれた対応ぶりだった。
「『除染は不可能』という主張は、原発事故が起きると手が付けられない、と東電が認めたようなものだ。『原発はコストが安い』という神話の否定で、他の訴訟や原発の再稼働反対にも大きく影響するはずだ」との意見。
潮見直之裁判長が原発の安全性に関する資料の開示を要求したが、東電は「必要性がない」と拒否した。「『自分たちは過失を争点にしないよう求めている。争点でないから出す必要がない』という勝手な論理」。要求に強制力はなく法的な責任はないが、提出してしかるべきではないのか。