特許庁新システムの開発崩壊 55億円は誰が負担するのか

(25.1.7) 特許庁新システムの開発崩壊 55億円は誰が負担するのかhttp://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-d869.html

 私のように長い間システム開発を担当していたものにとってはなじみの現象だが、そうでない人にとっては信じられないような大失策が発生した。
 特許庁が約100億円の巨費を投じて開発していた「新特許システム」の開発が途中で断念されることになったからだ。
すでに55億円が支払われているので、この損害賠償を特許庁は開発を委託した東芝ソリューションとコンサルタント会社(アクセンチュア)に請求すると言っている。
 特許庁によれば「設計や開発遅れはすべて東芝ソリューションとコンサルタント会社にある」と主張しているが、それをそのまま信用するわけにはいかず責任分担は特許庁と半々だろう。
 もともと特許庁のシステムはNTTデータが開発しており、東芝ソリューションは特許庁のシステムについて知識がなかった。
それがなぜ東芝ソリューションが開発することになったかというと、落札価格が想定価格の6割で最も安価だったことと、当時(2006年)NTTデータと官庁(社会保険庁)との癒着問題が取りざたされており、特許庁としたらNTTデータに開発を依頼しにくい雰囲気があった。
 かくして東芝ソリューションが新システムを落札したのだが、「まあ、安いしコンサルティング会社をつけて管理すれば、特許庁システムを知らなくても開発可能だろう」と特許庁は判断したらしい。
 だがコンサルティング会社というものはシステムの開発管理はできても特許庁の業務についてはほとんど知らないし、開発能力もない(ただしプレゼンテーションはうまいから何でも知っていると誤解してしまう)。
ただひたすら進捗管理だけを行って遅れると東芝ソリューションのSEを怒鳴り散らすだけだった。
「何でこんなに遅れるんだ。これでは11年1月の稼動に間に合わないではないか。絶対に間に合わせろ。それまでは寝ないでやれ」なんて話になって、開発会社はコンサルタント会社の奴隷のようになっていた。
 本来はこうした進捗管理は特許庁が自らすべきなのだが、特許庁にはシステム開発を指導できるSEはおらず、それまではNTTデータにおんぶに抱っこだった。
「自分たちはシステムのことは何にも分からないから、質問はすべてNTTデータに聞いてくれ」
 かくして特許庁も東芝ソリューションもコンサルタント会社も特許庁システムを何も分からずに開発に着手したことになる。
ここに最大の問題があることがお分かりだろうか。
 現行システムはNTTデータがメンテしており、特許庁のシステムの内容について知悉しているが、新システムの開発からは入札で負けてはずされている。
コンサルタント会社や東芝ソリューションがNTTデータに現行システムの内容を紹介しても、心理的サボタージュが始まる。
表面的な知識は教えても、システムのへそになるように知識はそっと隠して、新システム開発がわざと遅れるように仕向けるのは当然だ。
「東芝ソリューションにはいい加減におしえておけ!!」
注)これは新システム開発を他の会社に委託する場合には必ず起こる葛藤だ。
 もしここで特許庁に相応のSEがいて現行システムについて十分な知識を持っていたら、東芝ソリューションは特許庁のSEに質問すればよいので開発はスムーズに進むが、実際はその反対だ。
 こうして東芝ソリューションは特許庁システムの内容を理解できぬまま、特許庁からは次々に仕様変更が出て何を開発してよいか分からなくなってしまった。
システムの稼動時期は当初の11年1月から12年1月、14年1月と延ばされついに17年1月と言う途方もない時期にまで延長されてしまった。
06年から見たら10年以上たっても稼動できず、それもかなり怪しいと言う状況なのだからこのシステム開発は崩壊している。
注)システム開発で最も重要なことは仕様凍結であり、それ以上の開発要望は受け付けない措置が必要だ。そうしないと開発途中で次々に変更が入って何時までたっても完成しない。
その決断をするのは特許庁のSEの仕事だが、実際はそんな人はいないので東芝ソリューションは次々に仕様変更を受け入れた。
 かくして特許庁は約55億円をどぶに捨てることになったが、問題の本質はもう一度言うが特許庁が自らシステム内容を理解していなかったことにある。
すべてをNTTデータに任せていたのにそのNTTデータをはずしたため、誰も新システムの内容を設計して開発管理できる人がいなくなってしまった。
 コンサルタント会社は怒鳴るだけで実際は何も知らないからただただ東芝ソリューションとの仲が悪化するだけだ。
「俺たちはコンサルの奴隷ではない!!」
これでは損害賠償を東芝ソリューションやアクセンチュアに求めても無駄だろう。
特許庁がシステムに無知だった代償は非常に高いものについてしまった。
注)なおなぜ官庁でシステムSEが育たないかというと、そのような仕事をするとまず出世が見込めないからだ。官庁では総合職でないと出世しないので技術部門に釘付けになるとそれだけで将来を絶望してしまう。