ソイレント・グリーン

採録

“ この作品は、西暦 2022年のニューヨークを舞台にしている。近未来SFだと、映画 “ブレード・ランナー”の世界観が今や主流である。ブレード・ランナーが登場すると、雨後のたけのこのように似た世界観を持つ「映像」が次々と登場する (CGの仕事をしていても、未だに「ブレード・ランナーのような感じでお願い」という言葉を耳にする)。リック・ベッソンは、”フィフス・エレメント”で もっと後の世界を描いたが、明らかにブレード・ランナーの世界観を踏襲している。乗り物や工業製品のいくつかは新しいが、今の我々と似た生活様式や道具・ 家具も持っている(これは、全部未来風にしてしまうと現代との接点がなくなり、リアル観がなくなって、物語に共感できなくなってしまうのを防ぐためだ)。 しかし、ソイレント・グリーンは違う。作られた1973年から50年後の世界(今から22年後の世界)を描いているにも関わらず、未来的な建物も乗り物も ほとんど登場しない。むしろ現代より衰退している世界観で統一されている。2022年の世界は爆発的に人口が増え、食料不足と大気汚染に悩まされている。 市民の食料や水は、週一回の供給制。通りも建物の階段も、汚い恰好をした人々で充満している。供給される食品は、ソイレント社の固形食品”ソイレント・グ リーン”。海の養殖場で育てられたプランクトンから作られる緑色の食べ物。クロレラやスビルリナをクッキーにしたような食べ物である。チャールトン・ヘス トン演じる主人公の刑事が、ある事件をきっかけにこのソイレント・グリーンの恐ろしい秘密を知るのである。実は、海など当の昔に汚染されていて、プランク トンを供給できる状態ではなく、ソイレント・グリーンはなんと人間の死体から製造されているのだ。それを知った主人公の叫びは、供給を争うしか能のない群 衆に掻き消されてしまうという、ハリウッド映画にしてはアン・ハッピーエンドの救いのない映画である。

 この映画で、印象的なのは主人公の刑事が、上流階級の事件現場から生鮮食品やジャムをくすねてきて、老人と一緒に味わうシーンである。主人公は、本物の 食材の味に感動する。老人から「私が子供の頃は、そういったものが満ち溢れていた」と聞く主人公。やがて、老人は死を選ぶことに決め、ソイレント社へ赴 く。主人公刑事は老人を追うが、そこで死を選んだ者たちだけに与えられる特典を共に体験する。世界から絶滅してしまった自然や動物たちの大映像を見せられ る。主人公の刑事は、かつて存在した自然の美しさを初めて目にし、驚嘆し感動する。その素晴らしい特典と引き換えに老人は死んで、固形食品を製造する “ソイレント・グリーン”工場へ送られてしまった。この映画は、水質汚染・大気汚染・土壌汚染など、ありとあらゆる公害による被害が先進諸国で巻き起こっ ていた時代を反映していて、まったく明るさがなかった。一般受けしないのも、当然である。今から約30年近くも前に、公害や環境問題を真正面から扱った稀 有な超真面目SF映画である。”
ソイレント・グリーン (via nakano)