FTDの神経病理学的診断基準(The Lund and Manchester Group, 1994)

表1.FTDの神経病理学的診断基準(The Lund and Manchester Group, 1994 による)
1.前頭葉変性型 Frontal Lobe Degeneration Type
肉眼的変化:前頭葉と前方部側頭葉の両側対称的な軽い萎縮があり、脳室は前方部が拡大する。線条体、扁桃体や海馬に通常肉眼的萎縮はないが、時に激しく侵される例もある。
顕微鏡変化の分布:変化は前頭葉穹窿部皮質、時に眼窩皮質にみられ、又しばしば側頭葉皮質の前3分の1、帯状回
の前方部、稀に後部に認められる。上側頭回は明瞭に免れる。頭頂葉皮質が侵されるのは少数の患者でしかも軽い。
稀ながら進行した例ではより強く侵される。明瞭な常同型行動のある患者では、新皮質が侵されることは少なく、大抵は線条体、扁桃体、海馬に病変をもつ。これらはおそらく1つの亜型を表わす。
顕微鏡的特徴、灰白質:微小空胞形成と軽度ないし中等度のアストログリオーシスが主にI-III層にみられ、時にこれ
らの一方または他方の変化が優勢のこともある。II-III層に神経細胞の萎縮・脱落があり、一方V層では軽く、細胞
の脱落よりも萎縮が目立つ。時に2,3の異栄養性の神経突起がある。Pick小体、腫脹神経細胞、またはLewy 小体
はない。tauやubiquitinの免疫組織化学で何ら特別な特徴を検出できない。患者の中には黒質のメラニン色素細胞の軽度ないし中等度の脱落が見られる者もある。
白質:アストログリオーシスは中等度ないし軽度で皮質下のU線維に認められる。深部白質には穏和なアストログリ
オーシスがあり、時に髄鞘の狭小化と消失をともなっている。その分布は灰白質の変化と関係している。時に虚血に
よる白質の菲薄化もみられる。
 この分類(Table 1)はFTD(後にFTLD)の病理学的病型分類の基本をなすものであるが、研究が進んだ現在では、後述の如くこの中に多数の疾患が含まれることが明らかになっている。Snowden, Neary & Mann(1996)は全体を包括する臨床病理学的疾患群を意味する概念としてFrontotemporal Lobar Degeneration(FTLD)を用い、最初に侵される脳の領域の相違により、現れる臨床症状群の特徴に基づき3臨床型に分類し、FTDをその中の1型とし、他に非流暢性失語症と語義認知症を区別した。更にFTDを(a)脱抑制型(b)無欲型(c)常同型の3亜型に分けた(表2)。
2.Pick型 Pick-Type
肉眼変化:前頭葉変性型と同じであるが、一般により強く、より限局性である。左右非対称と線条体萎縮がよくみら
れる。顕微鏡変化の分布:肉眼的分布と符合して、前頭葉変性型と同じである。顕微鏡的特徴、灰白質と白質:前頭葉変性型と同じであるが、皮質の全層が強く侵される。腫脹神経細胞とPick小体が出る。これらは銀陽性で、tauおよびubiquitinに免疫反応性である。白質は前頭葉変性型より強く侵される。アストロサイトーシスが強い患者で腫脹神経細胞や封入体を持たないものはさしあたり含まれる。
 
3.運動ニューロン病型 Motor Neuron Disease Type
肉眼的変化:通常は余り重篤ではないが、前頭葉変性型と同じである。
顕微鏡変化の分布と灰白質と白質の顕微鏡的特徴:前頭葉変性型と同じである。脊髄の運動神経の変性があり、腰髄
と仙髄より頚髄と胸髄が強く侵される。前角では外側の細胞柱より内側の細胞柱でより細胞脱落がめだつ。運動
ニューロンの他、前頭葉と側頭葉皮質のII層神経細胞、海馬歯状回細胞などの運動系外にubiquitin陽性で、銀やtauには反応しない封入体がみられる。多くの患者で黒質の細胞脱落が顕著である。中には舌下神経核の変性を呈するものもある。
除外診断の特徴: Aβ蛋白質の抗体で老人斑、び漫性アミロイド沈着、およびアミロイド血管症が、また抗tau抗体
や抗ubiquitin抗体で神経原線維塊、neuropil threads  それぞれが年齢相応以上に多数あること。またプリオン蛋白質の沈着が抗プリオン抗体で証明されることを挙げている。(訳者注釈:記載はないが、Lewy小体が年齢相応以上に認められるものも除外されるであろう)