境界性パーソナリティは「単一疾患」なのか?
Is Borderline Personality a Disorder?
今回の家族集積性研究では「単一疾患」であることが示唆されたが、本研究結果は慎重に解釈する必要がある。
DSM-Ⅴの作成に向けて、パーソナリティ障害のカテゴリー診断を廃止し、その代わり、パーソナリティ機能障害のdimensionに重視するべきだとの提案がなされている。Gundersonらによる本研究は、カテゴリー診断による境界性パーソナリティ障害(BPD)と、BPDの構成要素にどの程度の家族性が存在するのかを検討し、BPD診断の普遍性について検討したものである。対象は、DSM-Ⅳ診断基準およびRevised Diagnostic Interview for Borderlinesの両方を満たしBPDと診断された女性132例、BPDの既往歴がない女性134例、大うつ病を有する女性102例、これらの女性の同胞(兄弟姉妹)と親885例である。
参加者全員についてカテゴリー診断を決定し、BPDの構成要素である情動、対人関係、行動、認知の4領域を評価した。その結果、BPD発端者-近親者ペアおよびBPD発端者の第1度近親者ペア全体では、BPD発端者がいない家族集団の近親者ペアに比べ、BPDの有病率が高かったが(それぞれリスク比 2.9と3.9)、相関性は中等度であった。BPDの構成要素の各領域(とくに情動、対人関係の領域)に関しても、BPD発端者を有する集団の近親者ペアにおいて同様の結果が得られた。
コメント
BPDを構成する4領域に比べ、カテゴリー診断によるBPD(以下「BPD診断」とする)において強い家族集積性の傾向を認めたことから、BPD診断は家族性であり、また、一般に環境要因の共有度がまったく同じとは考えられない親-子ペアおよび同胞ペアにおいてリスク比が同様であったことから、主に遺伝要因が関与している、との見解を示している。しかしながら、著者らが推定したBPD診断の遺伝率(55~74%)および診断面接時の評価者間の一致率は、パーソナリティ障害やいわゆる家族性疾患(双極性障害など)に関する他の研究とはかなり異なる。BPDの構成要素の特定領域(情動、対人関係の不安定)にも家族性が認められており、それがBPD診断に見かけ上の家族集積性を与えた可能性もある。さらに、BPD診断が今回検討されていないBPDの構成要素の領域との相関を表すマーカーであるとも考えられる。著者らは、BPDにおける家族環境の影響は軽微であるとの見解を示しているが、他の研究では環境要因が大多数の精神疾患(パーソナリティ障害の大部分は確実に該当する)に影響を及ぼすとの相反する知見が示されている。これらを総括して、パーソナリティ障害の診断分類は、特定のパーソナリティ障害の診断よりも、思考、感情や対人関係の制御異常という包括的な次元を取り込むことになるであろうとコメントしている。