アルコールの影響は遺伝しうるのか?
Can Alcohol Effects Be Inherited?
ラットにおいてはその答えは「イエス」、雄性生殖細胞系列では曝露後数世代にわたって影響がみられる。
出生前のアルコール使用はエネルギー、ストレス反応、免疫系、脳内報酬系の調節に関与している蛋白であるメラノコルチンおよびβ-エンドルフィンを産生するプロオピオメラノコルチン(POMC)遺伝子に変化を生じさせる。これらの変化は胎児性アルコール効果ならびに感染症やその他疾患に対する脆弱性の原因となる。動物を用いた本研究においてGovorkoらは、父親のアルコール使用によるPomc発現の変化(エピジェネティックな作用)がアルコール直接曝露のない子に遺伝しうるのかどうかを検討した。
研究者らは、アルコール含有餌または非含有餌にて妊娠ラットを飼育し、雄および雌の第1世代(F1)およびそれぞれ同性の次世代(F2)の子をアルコール非曝露ラットと交配させ、雄性、雌性の生殖細胞系列を作成した。対照ラットの子世代と比較し、胎児期アルコール曝露(FAE)成熟雌雄ラットの視床下部ではPomc発現レベルが低く、これに関連して同プロモータ領域の高メチル化、ヒストンアセチル化の異常、Pomc蛋白量の低値、基礎状態および刺激時における視床下部-下垂体-副腎(HPA)系の活動性亢進が認められた。2世代の雄FAE生殖細胞系列が同じエピジェネティックな変化を呈し、関連するHPA系の過活動を示した。第3世代(F3)FAEラットの精子においてPomcの高メチル化が検出された。
コメント
アルコールが遺伝子、その産物、ストレス反応調節に及ぼすエピジェネティックな作用は、そのあとにアルコール曝露がなくても子世代の雄に伝達されうることを複数の研究が示しており、本研究もそれを証明した最初の研究の1つである。本研究から得られた明らかな臨床的示唆は以下のようになる:妊婦は飲酒による有害作用の可能性について日常的に注意を受けるが、それと同じように、子どもをもつ予定がある男女に対しても、アルコールは遺伝子に有害な変化を与え、母親が妊娠中に飲酒していなくても、それが次世代(子孫)に伝わる可能性があることを注意すべきであろう。
—Steven Dubovsky, MD
掲載:Journal Watch Psychiatry September 24, 2012