レヴィ=ストロースは、婚姻の法則として「交差いとこ婚」を見出した。世界に広く行われている婚姻の形態だ。男は母親の兄弟の娘と結婚する。同様に女は父親の姉妹の息子と結婚する。
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同様にと言わなくても同じことなので冗長。
(=は婚姻関係を、単線は親子関係を示します。)
●基本的な仕組み
交叉イトコ婚とは、決められた集団に男が通うことによって、必然的に親の“異性の兄弟姉妹の子供”(交叉イトコ)が婚姻の対象となる仕組みです。
・男からみれば、母の兄弟(オジ)の娘が結婚相手であり、
・女からみれば、父の姉妹(オバ)の息子が結婚相手になります。
●生涯生まれた集団に所属する
婚姻では男が他の氏族に“通い”ますが、男も女も生涯生まれた氏族集団に“所属”しています。子供からみれば、同じ集団に所属する母とその兄弟(オジ)、祖母(母の母)とその兄弟によって育てられます。
●氏族集団をつなぐ婚姻規範
図解からは、氏族集団内で子育てを行いつつ、複数の氏族が婚姻によってつながっていることが解ります。
交叉イトコという名称自体は個人からみた捉え方ですが、本質的には、複数の氏族間で世代を通して婚姻対象を規定する規範であり、これによって閉鎖性を打破し、氏族同士のつながりを強化する統合システムであると言えます。
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■母方交叉イトコ婚
通い婚時代に形成された集団どうしの結びつきはそのままにして、女を男の集団に迎え入れるようになると、母方交叉イトコ婚になる。
嫁の出自集団から毎年ヤム芋などが贈られるが、これは通い婚時代の名残で、母方の兄弟が子供たちを養育するのが義務になっているからである。
母方交叉イトコ婚の優れているのは、A集団はB集団から嫁をもらい、B集団はC集団から、C集団はD集団から嫁をもらう等、嫁取り先が移行していくので、ヤム芋等の贈り物も同様に移行し、特定の集団に財が偏ることがなく、財が循環することである。
上記の内容を図解化すると以下のようになります。
(=は婚姻関係を、単線は親子関係を、←は移籍・移行を示します。)
●基本的な仕組み
「母方交叉イトコ婚」という名称は、父系社会を前提に、男の結婚相手が母方のオジの娘(母方交叉イトコ)に規定されることから定義されます。(女からみれば、父方のオバの息子(父方交叉イトコ)が結婚相手になります。)
結婚相手が交叉イトコに限定される点では、前回扱った「通い婚」と同じですが、「母方交叉婚」では女が父系氏族に移籍する点が「通い婚」と異なります。
更に上の図解で、例えばB集団をみた場合、どの世代においてもB集団はC集団から嫁をもらうと同時に、A集団に嫁を送り出している仕組みがわかります。そのようにして各氏族集団が婚姻規則によってつながっています。
●母方交叉イトコ婚に注目した人類学者
婚姻の歴史が書かれている文化人類学の書籍を見ると、必ずレヴィ=ストロースというフランスの人類学者の考えが載っています。構造主義と呼ばれる現代思想
の先駆者としても有名ですが、彼はきわめて広大な地域の未開部族を研究の対象としました。(その対象は、オーストラリア、南アジア、東南アジア、東アジ
ア、東部シベリア、さらには南北アメリカにまで及んでいます。)
中でも、オーストラリアの伝統社会における「母方交叉イトコ婚」に着目し、一定方向に女性が交換(移籍・移行)する婚姻規則と、贈物が受け渡される互酬性
によって、複数の集団をつなぐ社会統合が構築されていると考えました。同時に、この婚姻規則(規範)が貫徹されることによって、近親者(親子や兄妹)の婚
姻を禁ずるインセスト・タブーが生まれたと考えました。
この考えは、現在でも人類学の学説の主流となっています。
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アボリジニの伝統的婚姻―プロミスト・ワイフ(プロミスト婚)―を紹介します。
<プロミスト婚>直訳すると「約束された結婚」ってとこでしょうか、老若交代の2回婚ともいえる婚姻様式です。
具体的事例として、今から30年程前の事例が取り上げられている書籍があったので紹介します。現在でも行なわれていますが、若い世代からこの慣習は改めたほうが良いのではないかとの意見もでてきているようです。
彼(ウヌウン氏)は48歳の頃と思われる1978年、古くからの慣習にしたがってプロミスト・ワイフというかたちで、ブララ族の女性ワイマンバと結婚する。この結婚によってウヌウン氏は、さきのガマディむら建設途上でむかえた妻ランブプとともに、二人の妻をもつことになった。
このプロミスト・ワイフという結婚は、まず約束された女性を選ぶことからはじまる。その女性は、彼らの習慣によると、結婚する当該男性の父の姉妹の娘の娘の中から選ばれる。したがって選択の対象となる女性はかなりの年下で、しかも複数いることになる。その中から誰を選ぶかは、当該男性の母の姉妹とその配偶者が決める。こうして結婚すべき相手の女性が決定されると、夫となるべき男性はその女性が成人し結婚の適齢期をむかえるまで、場合によっては結婚した後も、彼女の両親に贈り物をつづけるなど、経済的に生活を援助する事が義務づけられている。その贈り物には、かつては狩猟・戦闘用のヤリとヤリ投げ器が選ばれたという。現在ではお金を贈ることが多い。
その義務が解除されるのは、プロミスト・ワイフとなった娘の両親が「もう充分だ」といった意味を申し出をするか、もしくは両親が死亡したときに限られる。これが履行できないとプロミスト婚は破棄される。
こうしてウヌウン氏は古くからの習慣に忠実な結婚をはたしたのである。
そして80年には、プロミスト婚でむかえた若い妻ワイマンバとの間に、ウヌウン氏にとって第二子、長女のジュンジュロをもうけた。
以上、『ユーカリの森に生きるーアボリジニの生活と神話からー』
国立民族博物館助教授 松山利夫著 より引用
氏族間の関係性を高めると共に、部族としての統合力を高めるためのひとつの婚姻形態だと思われます。
以前、松山教授に直接お話をお聞きしたときにおっしゃっておられましたが、
逆もあって16~17歳くらいで成人した男子は40歳過ぎの女性と結婚し、そして20年あまり連れ添うと、女性は年をとり先に亡くなり、40歳くらいになった男性は16~17歳くらいの成人した女性と結婚します。
そしてまた、その女性が40歳くらいになったときには、男性の方が先に亡くなるので、今度は若い男性と結婚します。
男性も女性も人生で二度以上結婚する老若交代婚ともいえる婚姻様式のようです。