[インターパーソナル(interpersonal)・フッサールの相互主観性(間主観性)]
インターパーソナル(interpersonal)とは、個人と個人の間の関係性を指示する用語である。コミュニケーションや行動・態度・表情による心理学的な相互作用及び心理療法の各種効果(支持・洞察・浄化)は、インターパーソナルな領域で発現することになる。
精密学としての自然科学に対して厳密学の哲学を確立しようとしたエドムンド・G・フッサール(Edmund Gustav Albrecht Husserl, 1859-1938)の提唱した『間主観性の現象学』では、間主観性・相互主観性(intersubjective)というインターパーソナルに類似した概念が使用されている。
フッサールは、哲学を根本的な認識の学として再構築することを目指し、普遍的な認識を基礎づけるための『エポケー(判断停止)』や『本質直観』という方法論を考案した。フッサールは、カントの先験的観念論の立場を援用して、客観的事象の実在性(主観意識の外部にあるモノが確かに存在するということ)を構成しようとしたが、その際に持ち出した説明概念が『間主観性(intersubjective)』なのである。
各個人の自我意識によって認識される世界(客観的事物)は個別の世界であると同時に、『他者と共有する世界』でもある。主観と主観の間にある事物や現象を『言葉・体験・文字』によって共通認識(共通理解)することによって、『世界の客観性・実在性』が保証されるとフッサールは考えた。この主観と主観が向かい合って、世界を共有化し共通理解を成立させることを『間主観性』と呼ぶのである。
間主観性は、個人と個人が向かい合う関係性であるインターパーソナルの概念と近似しているが、全く同一の現象や意味を指し示す概念ではない。間主観性は、身体を持つ個人と個人の関係を意味するインターパーソナルな関係を指示するのではない。間主観性(相互主観性)とは、個人の意識(自我)と個人の意識が相互作用を及ぼし共通認識を成立させる『客観的認識の根拠』を指示していて、『自分の見ている世界』と『他者の見ている世界』の基本的同一性を担保するものとなっている。
カウンセリングの心理面接や心理療法の構造化面接では、インターパーソナル(interpersonal)な状況やコミュニケーションが無数に存在していて、インターパーソナルの相互作用をどのように治療効果や自己洞察に結びつけるかが重要になってくる。自己と他者が向かい合って視線を交わし言葉でコミュニケーションする対人状況の全てが、インターパーソナル(個人間・対人的)な事態を意味しているが、対人的成熟度尺度(interpersonal maturity scale)で測定される対人場面への成熟度によって心理臨床家(カウンセラー)はクライエントへの対処を臨機応変に変えていかなければならないこともある。
対人関係障害(interpersonal relationship disorder)や対人選択(interpersonal choice)、対人距離(interpersonal distance)など心理学の一般的な用語としてインターパーソナルが用いられることは多い。